3. 地震活動の概要
3.1. 地震の分布
箱根火山ではしばしば地震が観測されています。なんとなく火山で発生する地震は火山の活動と関係があるというイメージをもたれがちです。しかし、地震活動が火山活動の何を反映しているかというのは難しい問題です。たとえば、マグマの動きと地震は関係があるでしょうか?
図3-1は、今回、箱根火山が活発化した4月下旬から8月末までの震源の分布です。マグマだまりはこれまでに行われた色々な研究から深さ7〜10kmより深い所にあると考えられています(例として図2-2)。一方、地震がおきているのは6kmより浅いところです。ですから、マグマだまりで地震がおきているわけではないといえます。
3.2. 震源深さの時間変化
そうは言っても、地震の分布を見ると深い所から浅いところまでつながっているように見えます。マグマが、深い所から浅いところに上がってきて、その過程で地震がおきているという風には読み取れないでしょうか。それを確かめたのが図3-2です。 図3-2abは小規模な噴火が発生した6月29日から30日の間に発生した地震の分布を示し、図3-2cは、震源の深さと時間の関係を示しています。もし、マグマが地下深くから上昇してきて、そのために地震がおきているとしましょう。その場合、地震もマグマの移動を反映し、地下深くで起き始めて、徐々に浅いほうで起きてくることが予想されます。ところが、6月29日12:30の噴火開始よりも前の7時頃に地震がおきたのは、大涌谷、湯の花沢から早雲山の間の深さ1kmより浅いところでした。その後、地震は時間を追うごとに深い所で起きるようになりました。
こうした震源の移動パターンから、今回の噴火はマグマが上がってきたために起きたという可能性は低いと考えています。実は浅いところから、深いところへ震源が移動するのは、過去に発生した群発地震活動でも観測されており、今回が特別というわけではありません。
3.3. 震源位置の変化
これまでは地震の大まかな分布(3.1.)と地震のおきる深さの時間変化(3.2.)を見てきましたが、地震が活発なエリアはどのように変化していったのでしょうか。図3-3では、地震発生域を大涌谷付近、神山・駒ヶ岳付近、湖尻付近、金時山南麓付近の4つのエリアに分けて、それぞれにおける地震回数の時間変化を表しています。 この図を見ると、最初に地震が多かったのは大涌谷付近(4月末)、その後神山・駒ヶ岳付近(5月11日前後)が多くなり、湖尻付近(5月15日前後)、金時山付近(5月末)と続きます。つまり、今回の箱根群発地震では、震源の場所が時間の経過とともに移動していったように見えます。こうした震源の移動は2001年の群発地震でも同様でした。今回は、震源が箱根カルデラ内を一通り移動した後、6月29日にまた大涌谷付近や神山・駒ヶ岳付近で地震が活発になりますが、その日に噴火が発生しています。