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更新日:2012年06月07日 作成者:ウェブ担当 閲覧数:10,649

東北地方太平洋沖地震後の箱根地震活動に関する研究

このトピックスでは、2011年東北地方太平洋沖地震直後の箱根地震活動について、欧文誌Earth Planets and Spaceの特別号「First Results of the 2011 Off the Pacific Coast of Tohoku Earthquake」に掲載された内容を紹介します。

引用文献(下記のリンクからどなたでもご覧いただけます):
Yukutake, Y., R. Honda, M. Harada, T. Aketagawa, H. Ito, and A. Yoshida (2011) Remotely-triggered seismicity in the Hakone volcano following the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake, Earth Planets Space, Vol. 63 (No. 7), pp. 737-740, 2011

1.はじめに

2011年3月11日14時16分に発生した東北地方太平洋沖地震(以下、太平洋沖地震と呼びます)直後から、箱根火山において地震活動が活発化しました。温泉地学研究所(以下、温地研と呼びます)の観測網により、2011年3月11日15時から4月2日12時までの間で1600個以上の地震が検知されました。地震発生から22分後にマグニチュード4.8の最大地震が、箱根カルデラ南部の深さ5km付近で発生しました。さらに温地研独自の観測により、箱根カルデラ内を震源とする有感地震は計68回に及んだことも分かりました。

この論文では、太平洋沖地震と箱根火山で発生した地震との関係を明らかにするため、地震活動の詳細な震源分布および時間変化を調べ、さらに連続地震波形記録にもとづき、太平洋沖地震により励起された表面波(地表を伝わってくる周期の長い地震波)の通過時に、温地研の通常処理では検知できない地震が発生していたことを明らかにしました。

2.太平洋沖地震発生後の箱根の地震活動

温地研の通常処理では、太平洋沖地震発生約17分後に最初の地震が検知され、4月2日12時までの間に、約1680イベントの地震の震源位置が決定されています。3月20日、22日および31日にわずかな地震数の増加がありましたが、活動は全体的には時間の経過とともに徐々に低下しました(図1(c))。

この研究では、Double-Difference法という手法を用いて、温地研通常処理よりさらに決定精度のよい震源位置を求めました(図1(a)(b))。再決定された震央位置は、南北方向に帯状に分布し、かつ小さい地震のかたまりに分かれて分布する特徴が見られます。この特徴は、過去に箱根カルデラ内で発生した地震活動の特徴(Yukutake et al. 2010)と類似しています。一方、カルデラ外の南側の北伊豆断層帯北部にあたる領域でも地震活動が観測されました。この領域は1995年以降で見て、地震活動があまり活発ではなかった場所になります。

太平洋沖地震直後から4月2日までに箱根火山で発生した地震の震央分布図
図1
(a)太平洋沖地震直後から4月2日までに箱根火山で発生した地震の震央分布図。赤丸は3月11日15時8分に発生したマグニチュード4.8と3月21日23時14分に発生したマグニチュード3.5の地震の位置を表します。
(b)図1(a)の震源を南北方向の深さ断面に投影した図。
(c)3月1日から4月2日までの地震活動の時間変化を表す図です。グラフの横軸は3月1日から4月2日までの時間を表し、左の縦軸はマグニチュードを右の縦軸は積算地震数を表します。オレンジ色の線は、積算地震数の時間推移を表し、値は右側の縦軸に対応します。矢印は太平洋沖地震が発生した時間を表します。なお、挿入された図は太平洋沖地震発生前後2時間の範囲を拡大したものです。

3.太平洋沖地震の表面波に隠れた地震の検出

太平洋沖地震が発生した直後数10分間は、震源域から発生した大きな振幅の地震波により、温地研の通常処理では箱根で発生した地震が検知されにくい状態にありました。そこで連続波形記録を詳細に調べることにより、太平洋沖地震により発生した表面波などに隠れた地震を検出することを試みました。この解析には、箱根カルデラ内の駒ヶ岳観測点(温地研)のボアホール型高感度速度計、及び箱根カルデラの北約40kmに位置する都留菅野観測点(防災科学技術研究所によって設置)の連続波形記録を用いました。その結果、太平洋沖地震の表面波(ラブ波とレイリー波)の到達している間に少なくとも4つのローカルな地震が発生していることが分かりました(図2)。これらの地震はS-P時間が1秒以下であるので、箱根カルデラ内で発生したと考えられます。

図2の結果は、太平洋沖地震によって発生したゆっくりした振幅の大きな地震波(表面波)によってカルデラ内が揺らされることで大きなひずみの変化が生じ、一連の地震が誘発された可能性を示唆しています。一方、国土地理院によるGPS観測により、太平洋沖地震が起きたことにより、東日本を中心に地殻が東西に大きく変形されたことも明らかになっています。実際、温地研の解析によると、箱根でも地面が数cm程度東に動いたことが分かっています。地震活動が太平洋沖地震のあとすぐには終息せず、約2ヶ月間かけてゆっくり減少する傾向が見られたことから、一連の地震活動を引き起こした原動力には、太平洋沖地震によって発生した表面波によりカルデラ内の地殻が揺らされることに加えて、上記のようなカルデラ内およびその周辺域の地殻全体が変形を受けたことも関係していたことが示唆されます。
3月11日14時46分から400秒間の連続波形記録
図2
3月11日14時46分から400秒間の連続波形記録、上段は駒ヶ岳観測点で記録された上下成分の連続地震波形記録、中段と下段は都留菅野観測点(防災科研F-net)で記録されたラディアル・トランスバース成分の連続地震波形記録を表します(震源から観測点に向かう方向がラディアル方向、それに直交する方向がトランスバース方向になります)。箱根駒ヶ岳観測点の波形記録は高周波成分のみを抽出し、一方都留菅野観測点では低周波成分のみを抽出して表示しています。
太平洋沖地震によるゆっくりとした大きな揺れ(表面波でラブ波とレイリー波で構成されています)が通過する時間帯に、箱根駒ヶ岳観測点では赤丸で示された位置に高周波のパルス状の地震波が観測されていることが分かります。これは、箱根火山内で発生したローカルな地震によるものです。

謝辞

本研究では、東京大学地震研究所、気象庁、防災科学技術研究所Hi-net・F-net観測点の地震波形記録を使用させて頂きました。記して感謝いたします。

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