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丹沢地域の地震活動に関する研究

投稿者: Gaia 掲載日: 2012/7/2 (8731 回閲覧)

このトッピクスは、欧文誌「Earth, Planets and Space」に掲載された行竹洋平・武田哲也(防災科学技術研究所)・本多亮・吉田明夫の共著による論文「伊豆−本州弧衝突帯北縁部丹沢山地下での地震活動に関する研究」について紹介したものです。


1.丹沢山地と伊豆−本州弧衝突帯

 山梨県と神奈川県の県境付近の丹沢山地は、伊豆半島が本州弧側の地殻に衝突し形成された伊豆−本州弧衝突帯の北縁部に位置します(図1)。この地域では伊豆半島と本州弧が衝突する際に形成された複雑な地殻構造が存在するほか、フィリピン海プレートが複雑な形状で沈み込んでいる場所でもあります。

  丹沢山地の下はこうした複雑な構造が存在するため、常時地震活動が高い場所です。体に感じない地震を含めると一ヶ月間に平均約20個の地震が発生しています。マグニチュード5〜6クラスの地震も1923年から現在までに13個発生しております。最近では、2012年1月に丹沢山地下でマグニチュード5.5の地震が発生し、山梨県東部で震度5弱が観測されました(詳しくは、こちらのページをご覧ください)。

この研究では、この地域で発生する地震の震源位置と発震機構解を高精度に決定しました。そして、丹沢山地下の地震活動がどのようなメカニズムで起こっているのかについて考察しました。なお発震機構解とは、地震の断層面がどのような形状をしているか、また地震で断層がどの方向に滑ったのかを表すものです。詳しくはこちらの気象庁ページを参照ください。

丹沢周辺図

図1
 丹沢山地およびその周辺域の地図。青色の点線は、Ishida(1992, JGR)で推定されたフィリピン海プレートの上面深度を表します。図の右下矢印は、フィリピン海プレートの運動方向を表します。研究領域の丹沢山地の下では、フィリピン海プレートが青色点線の形状で北西方向に沈み込んでいると考えられています。一方で、丹沢山地の西側の領域(青色のハッチで示した領域やその周辺)では、フィリピン海プレートに乗った伊豆島弧の地殻と本州弧側の地殻とが衝突している構造が発達している場所と考えられています。赤線四角は、図2で示す領域に対応します。
 この図中の、▼、▽、■印は使用した地震観測点の位置を示します(▼は温泉地学研究所、▽は気象庁、■は防災科学技術研究所観測点を示します)。

2.データおよび手法

 この研究では、丹沢山地域で発生した震源の位置を決定するため、周辺に設置されている温泉地学研究所の地震観測点、防災科学技術研究所Hi-net、気象庁の地震観測点のデータを使用しました(図1)。解析対象としたのは、2001年1月から2008年7月までに、同地域で発生した4500個の地震です。震源決定手法には、Double Difference(DD)法という手法を用いました。DD法では、近接して発生した地震の到達時刻の差を使って震源を決定します。この手法を用いることにより、通常の処理と比較して飛躍的に震源の決定精度を向上することができます。また、地震の発震機構解も、上記の地震観測点データを用いて決定しました。

3.丹沢山地域の震源分布と発震機構解の特徴

 本研究により決定された丹沢山地下の震源分布を図2に示します。丹沢山地の震源を東西方向の断面に投影して見ると(図2(b))、震源分布の特徴が東西で異なるということが分かりました。図2(b)をみると丹沢山地の東側では(RegionAと示した領域)、水平方向の比較的狭いゾーンに震源が集まって分布していることが分かります。さらに、この水平方向の震源の分布方向と過去の研究で推定されている同地域でのフィリピン海プレートの形状は調和的です。一方で、丹沢山地の西側では(RegionBと示した領域)、震源は深さ方向に厚みをもって分布する傾向があります。

震源分布図

図2
本研究で再決定された丹沢山地およびその周辺域の震源分布。マグニチュードが3以上の地震の発震機構解も表示しています。
(a)震源の分布を地図上にプロットした図です。カラーで示された丸印が震源の位置を表します。色は震源の深さに対応し、丸の大きさはマグニチュードの大きさを表します。
(b) (a)のA-B, C-D, E-Fで表された矩形領域内で発生した地震について、西北西−東南東方向の断面に投影した深さ分布になります。各プロット図の縦軸が深さ(0km-30kmの範囲)を表します。

 次に、同地域で発生する地震の発震機構解の特徴について調べました(図3)。ここでは、この地域のフィリピン海プレート境界面上で発生した地震の発震機構解を基準解(リファレンス解)とし(図3(a)の中に示された発震機構解がリファレンス解です)、各地震の発震機構解とリファレンス解とがどの程度類似しているのか、あるいはしていないのかを評価しました。その結果丹沢山地の東側の領域(図2のRegionAと示した場所)では、リファレンス解と類似した発震機構解をもつ地震が多く発生しているのに対して、丹沢山地の西側の領域(図2のRegionB)ではリファレンス解と類似しない発震機構解をもつ地震が多く発生していることが分かりました。

発震機構解の特徴

図3
図2(b)の深さ断面上でみた、地震の発震機構解の特徴を表します。図3(a)の中に示された発震機構解(この地域のプレート境界で発生した地震の特徴を反映しています)をリファレンス解とし、それと各地震の発震機構解の類似性を震源位置にカラーで表示しました。オレンジ色の丸で示された地震は、リファレンス解とよく似た発震機構解を持ち、紫色で表された地震はリファレンス解と類似しない発震機構を持ちます。なお、灰色の丸は、発震機構解が精度良く決定できなかった地震の震源位置を表します。

4.震源および発震機構解の分布から考察される丹沢山地下の定常的な地震活動の発生メカニズム

  この研究で得られた結果をまとめた模式図を図4に示します。丹沢山地の東側(RegionA)では、地震は水平方向の狭いゾーンの中で発生し、その分布形状とフィリピン海プレート境界の形状とが調和的です。さらに、個々の地震の発震機構解がフィリピン海プレート境界面上で発生した地震の発震機構解(リファレンス解)とよく似ていることから、RegionAでの地震は主にプレートの沈み込みに伴い発生していることが考えられます。一方で、丹沢山地の西側(Region B)では、フィリピン海プレート境界の形状と一致しない発震機構解をもつ地震が多く発生しており、かつ震源が深さ方向に厚みをもって分布するという特徴から、東側の領域とはことなるメカニズムで地震が発生している可能性があります。図1で示したように、この領域は伊豆島弧の地殻と本州側の地殻とが衝突している場所であり、RegionBの地震は伊豆の衝突によって生じた力が大きな原動力となっているのではないかと考えています。

地震発生模式図

図4
丹沢山地下での地震活動の特徴を表す概念図。丹沢山地の地下で発生した地震活動を南方向からみた図になります。この図の縦軸は深さに対応し、横軸は丹沢山地を東西方向に切った測線に対応します。

 丹沢山地の東側ではプレートの沈み込みによる影響が卓越し、西側では伊豆の衝突の影響が卓越することになり、RegionAとBの境は定常的な地震活動を引き起こす力の異なる領域の境界である可能性があります。過去の研究においても、例えば吉田(1993、地学雑誌)では、このRegionAとBの間には何らかの構造的な境界が存在するのではないかと指摘しております。もしそうならば、Region AとBとの境界には、大きなひずみが蓄積されていることが考えられ、将来的に大きな地震を引き起こすポテンシャルを持っている可能性があります。

 今後の課題として、この地域の詳細な地殻構造やフィリピン海プレート構造と比較し、上記のような構造境界が存在するのならばそこにプレートの沈み込みによって発生するひずみがどの程度分配されているのかを明らかにするとともに、その領域での大地震発生のポテンシャル評価を行っていくことが重要だと考えております。

5.おわりに

  この研究を実施するにあたり、温泉地学研究所が長年にわたり丹沢山地から箱根にかけての領域で高品質な地震データを観測し続けてきたことがとても大きく貢献しております。今後も、この地域における地震観測を継続させ、今後の課題として挙げた大地震発生のポテンシャル評価につなげこの地域の地震防災に役立てたいと考えております。

謝辞

  本研究では、気象庁、防災科学技術研究所Hi-netの地震波形記録を使用させて頂きました。また、防災科学技術研究所F-netによるモーメントテンソルカタログも使用させていただきました。本研究の一部は、文部科学省委託研究「神縄・国府津−松田断層帯における重点的な調査観測」からのサポートを受けました。記して感謝いたします。

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