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更新日:2009年09月10日 作成者:ウェブ担当 閲覧数:6,254

8月11日に発生した駿河湾の地震の震源過程

このトピックスは、2009年8月11日に駿河湾で発生した地震(Mj6.5)について、バックプロジェクション法を用いて解析した結果を報告するものです。なお、結果は暫定的なものであり、研究の進展によって今後変更される可能性があります。

はじめに

神奈川県温泉地学研究所では、箱根カルデラ内に19点の強震計を設置しています(図1)。2009年8月11日午前5時7分ごろ発生した駿河湾の地震(Mj6.5)では、このうち16点で強震波形を記録しました。この記録から推定された箱根カルデラ内の震度は最大で震度5弱でした。本報告では、この強震観測ネットワークの波形記録を使って解析した駿河湾の地震の震源過程について報告します。

データ

本解析では加速度波形に0.5-5Hzのバンドパスフィルターを掛けて積分したものをデータとしました(図2)。箱根カルデラ内の観測点では、S波と思われるピークが二つ観測されています。余震記録のS-P時間を参考に、一つめのピークの立ち上がりから8秒間の時間窓の、主としてS波から構成されると考えられる波形について、解析を行いました。

観測点分布と推定されたアスペリティの位置


図1
観測点分布と推定されたアスペリティの位置

速度波形(0.5-5Hz)


図2
速度波形(0.5-5Hz)

☆印は震央、長方形は想定した断層面を示す。

手法と結果

解析手法はHonda and Aoi (2009)と同様に、速度構造を仮定し断層面上の点から基準点までの走時を計算し各観測点との到達時刻差分をずらしてスタッキング(足し合わせ)します。その際よりコヒーレントな波(ここでは、震源から放出されたと考えられる波)を強調するように、振幅のN乗根でスタックするNth root stack(Rost and Thomas、2002)およびスタックした波形にセンブランス値を掛け合わせるSemblance enhanced stacking(松本ほか、1999)を採用しました。最終的に得られる結果は、波形記録に見られるある位相の発生位置としての尤もらしさの分布となります。

断層面は防災科研Hi-netのP波の押し引き分布から推定される初動メカニズム解を参考とし、走向63°傾斜角59°の南東傾斜の断層面を採用しました。また破壊開始点は、防災科研Hi-netによる(北緯34.805度、東経138.502度、深さ21.6km)本震震源位置としました。詳細な余震の震源分布(例えば防災科研)からは2枚の断層面が推定されていますが、本報告では震源を含む南東傾斜の断層面のみとしました。

解析の結果、破壊は破壊開始点から西に向かって進んだと推定されます。図1の結果からは、断層北西端付近から大半の地震波が放出されているように見えますが、これはほとんど二つめのピークの寄与によるものです。一つめのピーク部分(設定した時間窓の初めの4秒)だけを用いた解析では震源付近にエネルギーが集中します。8秒の時間窓全体を使ったときに、一つめのピークに対応するエネルギーの発生源がほとんどみえないのは、おそらく一つめのピークのほうが若干短周期成分が多く、二つめに比較して位相が合いにくいためではないかと考えられます。

謝辞

箱根カルデラ内に強震計を設置するにあたり、芦ノ湖キャンプ村・温泉供給株式会社・強羅目黒荘・東急リゾートサービス・箱根恵明学園・箱根登山鉄道株式会社及び箱根町防災課に便宜を図っていただきました。記して感謝いたします。

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