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更新日:2015年05月25日 作成者:ウェブ担当 閲覧数:20,913

箱根山における火山活動 【暫定解析結果 5月25日現在】

リアルタイムの地震数の変化などはこちらをご覧ください。 5月13日までの解析結果はこちらをご覧ください。

ここで示した内容は、研究の進展によって変更される可能性があります。

1.地震活動

地震の積算数の変化から、最近発生した比較的規模の大きい群発地震活動は大きく2種類に分けられます。一つは2008年や2009年のように、急激に地震が増えて比較的短期間で終息する場合、もう一つは2001年や2006年、2013年のように緩やかに地震数が増え、やや長い期間活動が続く場合です。今回の活動の立ち上がり方は後者に近いようですが、地震数の増え方は2001年や2013年よりもかなり速いことがわかります。なお、2011年は東北地方太平洋沖地震(M9.0)による誘発地震で、火山性の群発地震活動ではありません。

Double Difference法と呼ばれる手法を用いて震源位置を高精度で推定したところ、活動の初期には大涌谷付近のごく浅い場所に震源が集中していたことがわかりました。さらに、大涌谷直下の深さ0〜2キロ付近を震源とし、5月4日から5日にかけて発生した非常に活発な地震活動の際には、深いところから浅いところへ震源が移動していく様子が確認できました(こちら)。このような活動によって岩盤中に亀裂が入り、深部からガスなどの移動が容易になったことが、蒸気井での異常な噴気の一因になった可能性もあります。また、大涌谷と湖尻付近では、震源が面状にならび、時間とともに移動していく様子が確認されました。
活動当初から5月7日ころまでは、大涌谷から神山にかけての浅部で活発な活動が見られましたが、5月8日ごろからは活動の中心が駒ヶ岳から神山の下、深さ6km以浅の領域に移りました。その後、5月14日ごろには大涌谷のやや北西寄りの付近で活動が活発化し、15日から16日には湖尻付近の深さ3km以浅の領域で非常に活発な地震活動がみられました。地震活動は活動の中心を移しつつ、消長を繰り返しながら活発な状況が継続しています。

2.地殻変動

箱根周辺にある国土地理院のGNSS(GPSなど)データを用いて、スタッキング解析を行いました。この解析を行うことで、単基線のデータに比べて微小な基線長の変化もとらえることができます。解析結果を見ると、地震活動が活発化し始めた4月下旬ごろから、急激に基線長が伸びる変化が現れているように見えます。過去の群発地震の際にもこのような変化は観測されており、地震活動の活発化に先行して変化が出る可能性も指摘されていました。今回も変化が先行するような傾向が見えますが、詳細については今後検討していきます。図5〜7に示されるようなGPSの解析結果は、箱根山全体が膨張するような地面の変化をしめしており、深い場所に圧力源があることが示唆されます(図8のベクトルは、国土地理院の山梨県小渕沢を固定点とし、5/14〜5/24の平均値と3/21〜3/31の平均値との差分)。
一方、地面の傾きを測る傾斜計でも、今回の活動に関連するとみられる変化が観測されています。傾斜の変化を2001年、2013年と比較してみます。地震活動が活発になってから半月程度の間の変動量は、2001年、2013年よりも明らかに大きく、変化速度が速いことがわかります。このような傾斜変動を起こす圧力源は、大涌谷や駒ヶ岳付近の比較的浅い場所にあると考えられます。
小塚山観測点では、4月26日から27日ごろと、5月3日ごろにやや急な傾斜変化が見られます。また、東西成分は、5月10日前後から東下がりから西下がりにトレンドが変化しているように見えます。湖尻観測点のデータも、5月15日から16日に発生した湖尻付近での非常に活発な地震活動の後、トレンドが変化しているように見えます。
図12は、小塚山の2015年4月25日0時から、4月27日23時までの傾斜変化の様子を示しています。25時間ごとに点の移動する方向は、ほとんど変わりませんが、群発地震活動が活発化して以降は、移動する距離が大きくなっていることがわかります。図13は、同じように、傾斜ベクトル図上で毎時の傾斜データを示す点が、25時間で移動した距離の時間変化を観測点近傍で発生した地震数と比較したものです。25時間間隔としたのは、潮汐の主な周期に近いことから、見かけ上、潮汐の影響を小さくするためです。小塚山では、傾斜が急変した時に、近傍で発生する地震数が増加傾向にあるように見えます。駒ヶ岳でも、そうした傾向がありますが、地震を伴わずに急変することもあります(ただし、震源決定できないような微小な地震が発生した可能性はあります)。湖尻では、地震が傾斜変動に先行するようにも見えます。このような特徴は、各観測点の地下で生じている現象の特徴を反映している可能性があります。
GPSや傾斜計でとらえられた地殻変動を説明する、具体的な圧力源のモデルについては、現在解析中です。
  • グラフ中の細点線はトレンド補正後の0位置を示します。
  • グラフ中の太点線は、地震活動が活発化した日を示します。
  • 矢印は、地震による傾斜のとびを示します。
  • 傾斜変動は、上向きが北・東傾斜、下向きが南・西傾斜になります。
さらに、合成開口レーダー(SAR)による観測データを用いた解析では、より局所的な地面の変動がとらえられました。図14から16までは、群発地震活動発生前との比較です。2014年10月9日と2015年5月7日のデータから、図14に示すように噴気異常が認められた温泉供給施設(39号井)周辺の直径約200mの範囲で衛星視線方向に近づく変化(周囲に対し、相対的に5〜6cm程度)が認められました。またその周囲の直径約600mで衛星視線方向から遠ざかる変化が認められました。この変化は、地下のごく浅いところで、圧力が高まっている状態を反映していると考えられます。 さらに、2015年3月1日と5月10日のデータを用いた解析(図15)では、図14の緊急観測の結果とほぼ同様の範囲で衛星視線方向に近づく変化が認められました。具体的には、図14にみられる隆起域内に2つのピークが認められ、その変化量は北東側は4〜5cm、南東側は7〜8cmと推定されます。また、2015年4月17日と5月15日のデータを用いた解析(図16)では、大気の影響と思われる標高に依存するノイズが認められますが、5月7日の緊急観測の結果(図14)とほぼ同様の範囲で衛星視線方向に近づく変化が認められます。隆起域内の2つのピークの変化量は、北東側は約6cm、南東側は約10cmと推定されます。
図17、18は群発地震活動中のペアによる解析結果です。5月7日と21日のペアによる解析結果(図17)では、7日の観測で衛星視線方向に近づく変位が見えていた範囲が、さらに衛星視線方向に近づいていることがわかりました。隆起域内には2つのピークが認められ、7日以降の変化量は、北東側で3〜5cm、南東側で約15cmと推定されます。次に、5月10日と5月24日のペアによる解析結果(図18)では、10 日の観測で衛星視線方向に近づく変位が見えていた範囲が、さらに衛星視線方向に近づいていることがわかります。隆起域内の2つのピークの10日以降の変化量は、北東側で5〜6cm、南東側で約12cmと推定されます。
なお、駒ヶ岳、湖尻周辺には変化は認められませんでした。
ALOS-2/PALSAR-2による観測データは、火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通して、JAXAから提供されたものです。【 原初データ ©JAXA】
解析には、防災科学技術研究所が開発したSAR干渉解析ツール(RINC)を使用しました。

 

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