I−4−(4) 温泉の作用


 (1) 温泉の作用

 温泉の作用は、疲労を回復させる「休養」、健康を保持し病気を予防する「保養」、病気を治療する「療養」の3つに分類することができ、これを温泉の三養と呼んでいます。
 まず、温泉に入浴する効果として、温熱・浮力・水圧などによる物理的効果があげられます。次の効果として、温泉の含有成分による化学的効果と変調効果の二つがあげられます。
 そして温泉地の効果として、温泉地の地形、気候、植生など精神的効果があげられます。これは温泉地の環境として紫外線やイオン、気圧や森林浴効果など、まわりの自然環境が大きく作用しているようです。 このように、温泉および温泉地の効果は、温泉そのものの効果の他に温泉地の自然・気候など環境による効果、そして、食事や運動などの総合的な効果として現れるものであるといわれています。


区  分 効  果

温泉

物理的効果

温熱による効果

熱い 42℃以上

神経系・循環器系を刺激する作用

ぬるい 38℃以下

神経系・循環器系の興奮を抑える作用

浮力

体重が軽くなり、入浴中の運動が容易になる

水圧

循環器系、筋肉骨格系のたんれん

変調効果

神経系内分泌機能の調整

化学的成分による効果

温泉中に含まれる成分そのもののによる効果

地形、気候、植生

紫外線、空気イオン、気圧等の効果、森林浴効果

精神安定作用、鎮静効果

温泉地の効果
 
日本温泉協会「温泉百科」より引用


(2) 泉質別適応症

 温泉は古くから病気やけがの治療効果があるとされ、医学では「温泉療養」として認められています。特に温泉療養の効果が期待できる病気や症状を「適応症」といい、逆に温泉療養がマイナスになるものを「禁忌症(きんきしょう)」と呼びます。したがって温泉療養を行う場合には自己診断だけでなく、医師の指導を受けることが大切です。
 また、入浴する前に注意事項が書いてある、掲示証を読むことが必要です。    

<療養泉の一般的適応症(浴用)>

 神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進

泉質 浴用 飲用

塩化物泉

きりきず、やけど、慢性皮膚病、虚弱児童、慢性婦人病

慢性消化器病、慢性便秘

炭酸水素塩泉

きりきず、やけど、慢性皮膚病

慢性消化器病、糖尿病、痛風、肝臓病

硫酸塩泉

動脈硬化症、きりきず、やけど、慢性皮膚病

慢性胆嚢炎、胆石症、慢性便秘、肥満症、糖尿病、痛風

塩類泉の適応症


泉質 浴用 飲用

二酸化炭素泉

高血圧症、動脈硬化症、きりきず、やけど

慢性消化器病、慢性便秘

含鉄泉

月経障害

貧血

含銅-鉄泉

含鉄泉に準ずる

含鉄泉に準ずる

硫黄泉

慢性皮膚病、慢性婦人病、きりきず、糖尿病
(硫化水素型は、高血圧症、動脈硬化症を加えます)

糖尿病、痛風、便秘

酸性泉

慢性皮膚病

慢性消化器病

含アルミニウム泉

酸性泉に準ずる

酸性泉に準ずる

放射能泉

痛風、動脈硬化症、高血圧症、慢性胆嚢炎、胆石症、慢性皮膚病、慢性婦人病

痛風、慢性消化器病、慢性胆嚢炎、胆石症、神経痛、筋肉痛、関節痛、

特殊成分を含む療養泉の適応症

 


(3) 温泉の一般的禁忌症及び泉質別禁忌症

 温泉療養をしてはいけない病気や症状のことを「禁忌症(きんきしょう)」といいます。温泉療養をしてはいけない病気や症状も少なくありません。温泉療養を行う際は自己診断だけではなく、医師の指導を受けることが望ましいと思われます。


 <一般的禁忌症>
(浴用)

急性疾患(特に熱のある場合)、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、呼吸不全、腎不全、出血性の疾患、高度の貧血、その他一般に病勢進行中の疾患、妊娠中(特に初期と末期)


泉質

浴用

飲用

塩化物泉、炭酸水素塩泉

一般的禁忌症に準ずる

腎臓病、高血圧症、一般にむくみがあるとき、甲状腺機能亢進症のときヨウ素を含有する温泉は禁忌

硫酸塩泉

一般的禁忌症に準ずる

下痢の時

二酸化炭素泉

一般的禁忌症に準ずる

下痢の時

硫黄泉、酸性泉

皮膚粘膜の過敏の人、特に光線過敏症の人、(硫化水素型)
高齢者の皮膚乾燥症

下痢の時

温泉の泉質別禁忌症

 (4) 入浴の方法及び注意

 温泉には老化現象が認められ、地中から湧出した直後の新鮮な温泉が最も効用があるといわれていますが、それぞれの泉質に適する用い方をしなければかえって疾病に不利に働く場合があります。浴用上の注意事項はおおむね次のとおりです。

  1. 温泉療養を始める場合は、最初の数日の入浴回数を1日当たり1回程度とすること。その後は1日当たり2回ないし3回までとすること。
  2. 温泉療養のための必要期間は、おおむね2ないし3週間を適当とすること。
  3. 温泉療養開始後おおむね3日ないし1週間前後に湯あたり(湯さわりまたは浴湯反応)が現われることがある。「湯あたり」の間は、入浴回数を減じまたは入浴を中止し、湯あたり症状の回復を待つこと。
  4. 以上のほか、入浴には次の諸点について注意すること。
      ア.入浴時間は、入浴温度により異なるが、初めは3分ないし10分程度とし、慣れるにしたがって延長してもよい。
      イ.入浴中は、運動浴の場合は別として一般には安静を守る。
      ウ.入浴後は、身体に付着した温泉の成分を水で洗い流さない。                                                             (湯ただれを起こしやすい人は逆に入浴後真水で身体を洗うか、温泉成分を拭き取るのがよい)
      エ.入浴後は湯冷めに注意して一定時間の安静を守る。
      オ.次の疾患については、原則として高温浴(42℃以上)を禁忌とする。
          高度の動脈硬化症、高血圧症、心臓病
      カ.熱い温泉に急に入るとめまい等を起こすことがあるので十分注意をする。
      キ.食事の直前、直後の入浴は避けることが望ましい。
      ク.飲酒しての入浴は特に注意する。