II−2 火山性と非火山性温泉

 (1) 火山性温泉と非火山性温泉

 温泉はどのようにつくられ、どのような形で涌いてくるのでしょうか。
 温泉はガス性のものを除くと「水」が不可欠の要素となっています。私たちが入湯している温泉のほとんどは、雨や雪が地中にしみ込んで何年か後に温度や成分などを得て、再び地上に出てきた循環水であることがわかってきました。神奈川県の温泉は、産状により火山性温泉と非火山性温泉に分けられます。火山性温泉は、箱根火山など第四紀(約二百万年前以後)の火山活動で形成された温泉をいいます。
 また、深層地下水型は、熱水作用のなごりである丹沢山地の温泉等があり、化石海水型は、数百万年前の海水が地層中に長い間閉じこめられてできた温泉をいいます。



箱根温泉郷(火山性温泉)

1) 火山性温泉

日本には火山が多いことはよく知られています。火山地帯では地下数kmから数10kmに、深部から上昇してきたマグマがマグマだまりをつくり1000℃以上の高温度になっています。

 地表に降った雨や雪の一部は地中にしみ込んで地下水になり流れていきます。この地下水がマグマ溜まりの熱で温められたものが、断層などの自然の地下構造(割れ目)や人工的なボーリングなどによって湧き出てきます。これが火山性温泉です。代表的な泉質は、ナトリウム−塩化物泉(食塩泉)です。
 多くの場合、高温高圧の火山ガスや熱水の熱が地下水と交わり、地下水が温められるのですが、マグマだまりや高温岩体からの熱の伝導によって地下水が温められる場合もあります。 また、マグマのガス成分やマグマから分かれた熱水溶液などが地下水に混入したり流動中にまわりの岩石成分を溶解するなどで温泉の種々の泉質が形成されると考えられています。



湯河原温泉(火山性温泉)
 
 箱根大涌谷のような噴気活動の周辺には酸性のカルシウム−硫酸塩泉が湧出しています。湯河原温泉では、火山性温泉の典型とされるナトリウム−塩化物泉が混ざってできたと考えられるナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉が湧出しています。











2) 非火山性温泉
中川温泉(深層地下水型温泉)
(ァ)深層地下水型

 地下では深度が深くなるほど地温が上昇していきます。一般的には100メートル毎に約2〜3℃づつ上昇するといわれており、これは地下増温率または地温勾配と呼ばれています。
 例えば地表の温度が15℃と仮定すると、一般的には1000メートルの地温は35〜45℃、1500メートルで45〜60℃となるわけです。また、マグマと異なる高温岩体と呼ばれる高温の岩体が地下にある場合があります。
 地表に降った雨や雪の一部が地中にしみ込んでいき地下水の流れをつくり、それが高温岩体や地熱を熱源として暖められたものが非火山性温泉の深層地下水型と考えられています。

 中川温泉は温泉の熱源が2000万年前に割れ目に沿って上昇してきたマグマ(石英閃緑岩)の余熱であるということです。丹沢山地ができたころは、いたるところで高温の温泉を噴出していました。岩石の割れ目に温泉の成分がいっぱい付着している岩肌をみることによって、その当時の様子を想い起こすことができます。その後、マグマは長い年月を経て冷却しました。また、温泉地学研究所の調査によれば山側に向かうほど、即ち石英閃緑岩に近づくほど地中温度が高くなる傾向があります。

七沢温泉(深層地下水型温泉)
 温泉が湧出する機構は、割れ目や人工的なボーリングなどによっています。中川温泉や七沢温泉は火山性の温泉に比較すると温度が低く、高いもので40℃です。溶けている成分が少なく、アルカリ性が高い(pH10にもなる)特徴があります。入浴後が爽快です。












(イ)化石海水型
鶴巻温泉(化石海水型温泉)
 太古の地殻変動などで当時の古い海水が地中に閉じこめられている場合があります。これを化石海水と呼んでいます。
 化石海水が地表から数百メートルの浅い部分にある場合はそれほど高温にはなりません。例えば、火山や高温岩体などの特別な熱源がない地域で、地下400メートルの位置に化石海水があり、地表の温度15℃と仮定すると、地下増温率を使った計算により23〜27℃になります。化石海水の場合は塩分を多量に含有しているので、25℃以下でも温泉法の温泉となります。
 また、海岸に近い地域では、現在の海水が地下水や化石海水に混入しているケースも見られます。

 鶴巻温泉はナトリウム・カルシウム−塩化物泉(または、カルシウム・ナトリウム−塩化物泉)で、溶けている成分が多い温泉です。

 横浜、川崎などの茶褐色の温泉は塩化物が少なく、ナトリウム−炭酸水素塩泉に塩化物が加わった泉質など、地域によって少し泉質が違います。化石海水を取り込んだ堆積層の環境条件によって泉質の違いがあると考えられます。

横浜の温泉














 



 


(2) 温泉生成(火山性温泉と非火山性温泉)のしくみ

 温泉は地下から湧出してくるものですが、その水はどこから供給されるのでしょうか。温泉水は雨水などが地下に浸透し、ゆっくり地下深くを循環して熱や成分を獲得したものです。これには、数年から数万年かかるとされています。湧出する温泉がどのような水か、その起源を調べるには酸素、水素の同位体を使う方法があります。
 地下深くまで人工的に掘削する場合は別ですが、温泉が自然に湧出する場合は、温泉水が地上まで上がってくるための通り道が必要となります。多くの場合、地下深くから地上までつながっている断層や破砕帯などの割れ目が温泉の通り道になっています。断層破砕帯などの割れ目は、あるところでは地下水が深くしみ込む通り道となり、またある所では温泉が地上に上がってくる通り道になっているのです。

図 水の循環 水は海水、水蒸気、降水、河川・湖水、地下水などとなってその姿や水質を変えながら循環している