Please allow javascript.
 IV−4 温泉の掘削

(1) 温泉開発技術の変遷

箱根湯本の横穴式源泉

 明治時代まで温泉は谷間に自然湧出していたものを人々は利用してきました。近年、交通網の発達や経済成長により、沢山の人々が容易に温泉地を訪れるようなってから、温泉需要が急激に増加してきました。そうなると、自然湧出だけでは不足してくるので広範囲な地下深所に温泉源を求めるようになります。しかし、掘削技術の進歩が伴わなければその開発は成功しません。温泉開発は掘削技術の発達とともに歩んで来ました。


(2)掘削方法の変遷

 温泉需要の少ない時代は、谷底の温泉湧出している場所に適当な深さの浴槽を掘ったり、湧出箇所から浴槽まで樋により温泉を引湯して利用していました。
 温泉の需要が増加すると、自然湧出の周辺に温泉孔井が掘削されるようになりました。更に谷間の低地から離れ地下水面の深い山腹の高所で掘削されるようになり、掘削深度は増加してきました。それまで、掘削できなかった地層も、技術の発達により掘削できるようになりました。掘削技術の変遷は図のとおりです。 

ア)横堀、横穴
 温泉湧出地点に適当な深さの浴槽を掘ることは昔から行われてきました。また、温泉のしみ出し口を目がけて掘られた箱根湯本の横穴は、大正年間に掘削されたようです。(箱根温泉誌 1981)




イ)上総堀   上総掘りによる北越新津油田 (資料提供 木更津市郷土博物館)
 上総堀は衝撃式掘削の一種で、最初上総国で用いられていたことからこの名がついたといわれています。
水井戸の上総掘りやぐら(資料提供 木更津市郷土博物館) 木更津市郷土博物館の資料によれば「上総堀り」の技術は、江戸時代後期に上総地方に伝えられ、君津市俵田の井戸掘り職人大村安之助や石井峯次郎らによって、竹ヒゴ、掘鉄管、スイコを組み合わせた掘削技術が考案されたそうです。
 さらに改良が加えられ、明治時代中頃に「上総掘り」の井戸掘り技術は完成しました。この技術は3,4人の少人数で数百メートルの深さまで掘削でき、危険性もほとんどない画期的なものでした。上総地方からは、多くの井戸掘り職人が生まれ、昭和30〜40年代の終焉期を迎えるまで、全国各地で井戸の掘削に活躍したそうです。また、水井戸だけではなく、温泉や石油の掘削にも利用されました。
 このようにして、「上総掘り」の名は、全国的に知られるようになりまた。人力と竹の弾力が動力源ですから、口径、深度に制限があり、掘削深度は200〜300メートル以内でした。硬い岩盤に突きあたると掘削が困難になり、孔井が完成するまで長い年月を要するなど欠点がありました。
 「上総掘り」は現在でも東南アジアやアフリカなどで技術援助され、貴重な水資源の開拓技術として取り扱われています。 (上総堀の資料写真 提供 木更津市郷土博物館)




綱堀式掘削

ウ)綱堀式
 綱堀式掘削は衝撃式(パーカッション)とも呼ばれた上総堀と同様に衝撃式の一種です。この掘削方式は上総堀と同様に第二次世界大戦前から用いられました。
 上総堀が昭和20年中頃に対して、綱堀式は戦争直後から昭和40年代初期までの掘削方法の主役であり、孔井深度は大部分が500メートル以内です。県内の温泉孔井の直径は10cmが普通です。鉄のみの太さは15cm、長さは3〜4メートルでした。鉄ノミは太いワイヤーロープにつながれ、小型ウインチによって上下し、5馬力程度のモーターが用いられていました。
 昭和40年代頃まで人里離れた山腹に掘削用の櫓と小屋が建ち、1〜2人の技術者が自炊しながら朝から晩までガチャン、ガチャンと掘っていました。










エ)回転式
 戦後の、綱堀式が主役であった時代にも、一部で回転式が用いられていました。掘削深度が500メートルを越すようになる昭和40年代初期からは、回転式が掘削方式の主役となりました。回転式掘削のビットにはコアー掘用とノンコアー掘用があります。掘削深度が700メートル以内のうちはコアー堀でしたが、700メートルを超すようなるとノンコアー掘りが出現しました。
 ノンコアー堀はコアーを採取しないので、ロッドの昇降回数が少なく、工期を短縮することができます。しかし、コアーを採取しないので容量の大きなポンプを使用して掘削岩粉を排出する必要があります。掘削方式が回転式になってからは、スライム(掘削岩粉)を排出するために強力なポンプが使用されるようになりました。スライムは時として温泉湯脈の目詰まりを起こすこともありました。

回転式(ダイアモンドビット) 回転式ノンコア(トリコンビット)




















(3) 温泉掘削の手続き

温泉を掘削する場合は温泉法第3条に基づき、事前に県知事の許可を受ける必要があります。許可にあたっては、県自然環境保全審議会へ諮問し、審議を経た上で掘削の許可が決定されます。
 事前に地元保健所にご相談ください。

■温泉法の規制等の内容
温泉の保護及び利用について次に揚げる行為をしようとする者は、知事の許可を受けなければならない。
(1) 温泉を湧出させる目的で土地を掘さくしようとするとき。(法第3条)
(2) 温泉の増掘及び湧出量増加のために動力を装置しようとするとき。(法第11条)
(3) 温泉を公共の浴用又飲用に供しようとするとき。(法第15条)



プリンタ用画面
前
IV−3 湧出量と降水量の関係
カテゴリートップ
温泉を知ろう
次
IV−5 温泉地学研究所における温泉研究の成果

  • お知らせ
  • トピックス
  • 研究所紹介
  • 地震・地殻変動データ
  • 基礎講座シリーズ
  • 温泉分析依頼
  • 刊行物
  • 研究所に関する資料


温泉地学研究所は地質、地震、地下水、温泉の研究を通じて
地震火山災害の軽減や、県土の環境保全に役立つ研究を行っています。
〒250-0031 小田原市入生田586 神奈川県温泉地学研究所 TEL:0465-23-3588 FAX:0465-23-3589 top