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  I−1 温泉の歴史

(1) 古代の温泉
日本各地の温泉を発見したとされる高僧
 日本の古い書物である古事記や日本書紀、各地の風土記などには古代の温泉の記載が見られます。
 当時、政治の中心が奈良や京都にあったことから、道後(愛媛)、有馬(兵庫)、白浜(和歌山)、玉造(島根)など西日本の温泉に片寄ってみられます。
 神話には、けがをした因幡(いなば)の白ウサギを大国主命(おおくにぬしのみこと)がガマの穂で治療したり、病気の少彦名命(すくなひこなのみこと)を温泉に入浴させて全快させたことなどが記載されています。これらを元に大国主命と少彦名命は日本各地にある温泉神社にまつられています。
 大昔、楔(みそぎ)、祓(はらい)の式に温泉が利用されましたが、これは自然湧泉が沢水などに比べて細菌が少なく、高温であればさらに治療効果があると考えられたと思われます。

 また、熊野の湯垢離しや箱根仙石原の伝統芸能湯立て獅子舞(神奈川県無形民俗文化財指定)は、身を清め、煮えたぎった湯に笹の葉を浸して行う神事でありみそぎの系統です。
 7世紀後半から8世紀後半頃にかけて編集された万葉集には湯河原の温泉が詠まれています。当時は、湯河原の河原には湯がこんこんと湧出していたらしい。現在、湯河原には万葉集の歌碑がある万葉公園があり、この温泉は含石膏食塩泉となっています。
 このほか、全国各地には霊泉や秘湯の発見にまつわる伝説に猿、鶴、鹿などの動物が関係する逸話があります。また、仏教では沐浴の功徳を説いていますが、行基や弘法大師といった高僧が発見したと伝えられる温泉も多いようです。


箱根底倉にある太閤秀吉が使ったとされる「太閤石風呂」(2) 中世の温泉

 中世の温泉は、鎌倉幕府が開けて、東方の熱海(静岡)、箱根(神奈川)、伊香保(群馬)、草津(群馬)などが有名になりました。中世の温泉地の多くは、武将や武士、そして僧などが盛んに利用したことによって、湯治場として発展したのではないかと考えられています。
 蒙古襲来のときの別府、鉄輪(大分)や、豊臣秀吉ゆかりの箱根底倉の「太閤石風呂」(右の写真)、また、戦国時代になると、多くの温泉地に傷兵を温泉で治療したという記録が残されています。
 特に、甲信越地方には、武田信玄や真田幸村などの戦国武将の「隠し湯」と呼ばれる温泉地が数多く存在します。
武田信玄の「隠し湯」では下部(山梨)、渋(長野)、中川温泉(神奈川)などが有名です。


      


(3) 近世の温泉

 江戸幕府になって政権が安定すると、温泉は大勢の人々に利用されるようになり、また温泉医学が進み、温泉案内や温泉番付が発行されるようになりました。箱根温泉を紹介した「七湯の枝折」には、温泉の効能や温泉にまつわる伝説が記載されていました。温泉の効能は、長年の経験や勘によって決めていたようです。
 また、温泉にまつわる伝説は、その地域に伝わる貴重な財産でもあります。当時の温泉番付は、歴史が古く効能が顕著な順序に並べていたと考えられます。
 東方は草津(群馬)、那須(栃木)、湯河原、箱根芦之湯、嶽(青森)、伊香保(群馬)、鳴子(宮城)など、西方は有馬(兵庫)、城崎(兵庫)、道後(愛媛)、山中(石川)、阿蘇(熊本)、別府(大分)などとなっていました。


(4) 現代の温泉
箱根大涌谷の蒸気を利用した温泉
  近世までの温泉は、自然湧泉を利用していましたが、現代になると掘削による温泉開発と動力による機械揚湯が主流となりました。
 温泉の掘削方法は、手掘り、竹の弾力を利用する上総掘りから衝撃式、回転式コア掘りと進歩し、最近は回転式ノンコア掘り(掘削速度は早いが、コアを連続的に採取しないので地質が正確に把握できないなどの欠点があります。)による深さ 1000メートル以上の大深度掘削が増えています。
 また、温泉の採取方法は、自然湧泉もありますが、自噴掘削泉、渦巻ポンプ利用泉からエアーリフトポンプ利用泉と強力化し、最近は深い位置から多量に汲み上げる水中ポンプ利用泉が増えてきています。

 より深く、より多量に温泉を利用することによって付近にある自然湧泉の枯渇や周囲の源泉所有者との紛争が起きる場合もありました。

 温泉地学研究所元所長の大木靖衛らは「新しい技術を普及させるためには、その及ぼす影響について科学的な検討を加えて、利用するときのルールを決めておかなければならない」と提言しています。



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温泉地学研究所は地質、地震、地下水、温泉の研究を通じて
地震火山災害の軽減や、県土の環境保全に役立つ研究を行っています。
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