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 IV−2 温泉にまつわる話

箱根大涌谷の火山ガス

(1)硫化水素

 火山噴気地域では硫化水素の臭いが鼻をつき、硫黄の結晶が見られます。硫化水素を2mg/kg以上含む温泉は療養泉の硫黄泉に該当し、慢性皮膚病、慢性婦人病などによい。このように硫化水素は入浴の効き目があるが、時として中毒事故を起こすことがあります。箱根でも過去に温泉掘削工事中の事故が起きています。
 気温が低く、無風状態では硫化水素が濃縮しやすく、低地や穴には空気より重い硫化水素が滞留してしまいます。これらによる事故の原因は、硫化水素と酸欠空気による窒息と推定されています。
 箱根の硫化水素を含む温泉について、温地研では温泉水中及び気相中の硫化水素を測定しました。温泉水中の硫化水素は低温でpHが高いほど溶存量が多くなります。また、pHの低い酸性の温泉では硫黄が析出したり、大気中の酸素による酸化などで溶存量が速やかに減少してきます。
 なお、硫化水素については1975(昭和50年)に環境庁通知による温泉の利用基準がまとめられています。浴用については硫化水素による事故の事前防止のために、浴室内の大気中硫化水素濃度を制限する措置がもり込まれました。
箱根大涌谷の火山性ガスの注意を呼びかける掲示板



 また、秋田県湯沢市の泥湯温泉で2005(平成17年)12月に硫化水素ガスを吸った家族4人が死亡した事故を受けて環境省では2006(平成18年)2月28日、温泉施設での硫化水素ガスによる事故を防ぐため、換気口を2カ所以上設置することなどを定めた設備構造基準を都道府県に新ためて通知しています。

 対象は湯量1キログラム中に硫黄を2ミリグラム以上を含む温泉を使った旅館や浴場などの施設です。浴場内での硫化水素の滞留による事故を防ぐため、旅館業者などに対し、換気口や風向きなど換気状態の確認や、都道府県などが必要と判断した場合は1日2回以上の硫化水素濃度の測定を求めています。 環境省が2004年度に実施した調査では、温泉利用施設は全国に約2万カ所あり、このうち硫黄泉は8.1%となっています。




(2)茶褐色の温泉、フミン酸

京浜−湘南地域にはフミン酸を含む茶褐色に着色した温泉水神奈川県内の京浜−湘南地域にはフミン酸を含む茶褐色に着色した地下水が広く分布しています。これらの地下水は重曹型の水質を示し、温泉の規定値を満たすものが多くみられます。
 茶褐色に着色した温泉は重曹(NaHCO3)成分を多く含んでいるため、入浴の感覚はぬるぬるして、浴後の肌はさっぱりすべすべという泉質をもっています。
湯が黒くなる原因と、重曹分が多いことは密接な関連があります。茶褐色の色は、温泉水中に含まれる褐色の有機物が原因となっています。ひとくちに有機物といってもたくさんの種類がありますが、黒湯の原因は「腐植質」とよばれる物質です。

 腐植質が最も多く含まれるのは、黒土とか腐植土という肥沃な畑の土壌で、農業分野では重要な物質となっています。
腐植質は化学的にみるとフミンという高分子芳香族化合物にあたります。また、水道事情の悪い地区ではこれらの着色水を無色化処理して飲用に利用する計画もあります。ここではフミン酸を含む着色水の有機物(COD)濃度と400nmの吸光度によい相関があることがわかっています。


(3) ラドン

 ラドンは半減期3.8日の自然放射性同位元素であり、無色の不活性気体で水にやや溶けています。1960(昭和35)年頃代の他機関の温泉分析所にラジウムエマナチオンとして測定値が記載されていました。このことに基づき茶褐色の温泉がラジウム鉱泉といわれてましたが、このような温泉はありません。当所では1981年頃シンチュレーションカウンターが導入されたので、採水からラドン濃度の計算までの操作方法を確立しました。
 また、地下水中のラドン濃度の異常変化が地震と関係があるといわれていたので、当所でも7地点について毎週一回定期的に調査を行いました。2年半の期間に比較的大きな地震が7回ほどありましたが、ラドン濃度の変化と地震との対応関係は明瞭ではありませんでした。また、国府津・松田断層と直交するような配置で地層気体中ラドンを測定した結果では、活断層の位置とラドン濃度のピークによい相関がみられました。
 ラドンは30×10-10キュリー/kg(=3000pCi/kg)以上あれば療養泉として放射能泉に該当します。


(4)水銀
 箱根の大涌谷等の地熱地帯には蒸気卓越熱水型で、水銀含有量も多いと思われていました。また、温泉利用基準も問題となっていたので、高温の食塩型の温泉が湧出している地域について水銀の濃度分布と挙動を過去に調査をいたしました。水銀測定は硝酸酸性の試料を還元気化循環−原子吸光法で行いました。40地点の水銀濃度は0〜22μg/kgの範囲でした。
 また、水銀含有量の多い温泉は大木らが明らかにした高温塩化物泉(第III帯)の流れに沿って分布していることがわかりました。なお、1975年の環境庁通知による飲用利用基準ではヒ素、銅、フッ素、鉛、水銀、遊離炭酸を含有する温泉水の飲用量について制限を設けています。

(5) ヒ素

 ヒ素は岩石中に硫化物等として広く分布しています。ヒ素の挙動は、一次的には地殻深部から熱水や火山ガスなどに伴って還元的な物質として供給されています。その一部が熱水からの直接流入や酸化的化学反応に伴い、環境中に溶出すると考えられます。
 火山性温泉のヒ素濃度と塩素イオン濃度との関係を見てみると、箱根上の中央火口丘溶岩類から湧出する温泉はヒ素濃度が比較的高く、湯本等の基盤岩類から湧出する温泉及び湯河原温泉はヒ素濃度が比較的少ないことがわかりました。


温泉スケール (6) 温泉沈殿物

 箱根や湯河原の多くの源泉はエアーリフトポンプによる動力揚湯を行っている。エアーリフトポンプ揚湯は圧縮した空気を井戸内に吹き込み、気泡とともに温泉を揚湯します。この装置は揚湯管等に炭酸カルシウムの沈殿物(スケール)が付着しやすく、揚湯に支障をきたすので、頻繁に井戸掃除をする必要に迫られます。

 鈴木らはCO2-CaCO3系の平衡定数を25〜100℃で測定し、温泉沈殿物の生成機構について、地下熱水は地上に揚湯されると、CO2分圧が低下し、pHは上昇して、CO2-が増加するので、炭酸カルシウムが沈積すると説明しました。
  粟屋らは湯河原温泉のエアー管等に付着する温泉沈殿物の状況を調査し、高温で蒸発残留物の多い源泉ほどスケールの付着が著しく、低温で蒸発残留物の少ない源泉はスケールが付着しないことがわかりました。
 また、杉山らは走査型電子顕微鏡による温泉沈殿物の形態を観察しました。高温の温泉で生じた沈殿物は結晶が小さく、針状〜短針状のアラゴナイトや菱面体状のカルサイトががみられました。


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