2. GPSによる観測
2.1 GPSで明らかになるマグマだまりの膨張
箱根火山やその周囲にはGPSの測定点がいくつかあります。ここでいうGPSとは、基本的に車のナビゲーションで使われるものと一緒ですが、遙かに高精度で、地面に固定されています。このことにより、地殻変動で地面が動くことによる、観測点の微妙な動きを測定しています。火山は地下にマグマだまりがあります。マグマだまりには、ときどき地下深いところからマグマが供給されます。マグマの供給があると、マグマだまりはその分膨らみます。マグマだまりが膨らむ結果、火山全体も膨らみます。火山全体が膨らむと、火山を挟んだ観測点の間の距離が伸びます(図2-1)。
温泉地学研究所でGPSのデータに注目している理由は様々ありますが、箱根火山に関しては、主としてこのようなマグマだまりの膨らみを見ているかも知れないという前提で、様々な角度から検討をしています。2015年の噴火前にも、マグマだまりの膨らみが観測されました(図2-2)。しかし、こうした観測データが得られるのは珍しいことではありません。マグマだまりの膨張現象は数年に1回程度の割合で発生しています。また、マグマだまりの膨張が起きると地震活動が活発化することも知られています(図2-3)。
図2-2 GPSによって観測された山体膨張。黒矢印は、観測されたGPS観測点の移動方向と移動距離を表す。箱根火山の中心から、観測点が遠ざかっているように見えるのは、中心部が膨らんでいるため。赤の×印は、観測結果を基にした計算によって推定される膨らみの中心(膨張源=マグマだまり)の位置。赤矢印は、マグマの膨張によって推定される地盤の動きを示す。ここで赤矢印は、マグマだまりが深さ7.5kmの所にあり、そこで760万立方メートル膨らんだときに予想される観測点の移動の様子が示されている。なお、青と濃い緑の棒は観測されたGPS観測点の垂直変位、薄い緑色の棒はマグマだまりの膨張によって推定されるGPS観測点の垂直変位を示す(垂直変位とは地面の上下方向の動きのこと)。
2.2. 今回の火山活動でも一番はじめに動いたGPS
温泉地学研究所のこれまでの研究で、箱根で時々起こる群発地震の少し前に、GPSでマグマだまりの膨らみとみられる現象が捉えられることがわかってきました。今回の箱根火山の噴火にいたる火山活動の活発化でも、はじめに起きたのは、GPSで山体を挟む距離が伸びる現象で、4月の初め頃に起きました(図2-4)。
マグマだまりの膨張は7月ごろまでにかなり鈍り、その後は停止状態にあるようにみえます(図2-4)。