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伊豆大島火山のスコリア丘形成に関する研究

投稿者: Gaia 掲載日: 2008/1/16 (8095 回閲覧)
 当所職員が執筆した標記の論文がこのほど、世界的に評価の高い地球物理学関連の雑誌の一つである、アメリカ地球物理学連合発行、ジオフィジカルリサーチレターズ (Geophysical Research Letters), 34巻に掲載されました。
この論文では、伊豆大島火山1986年噴火時に形成されたスコリア丘を形成する粒子の粒度分布を測定し、その結果から、スコリア丘のでき方についてこれまでと全く異なる理論を提案しています。

 このトピックスは、萬年一剛(温泉地学研究所・主任研究員)が伊藤孝(茨城大学教育学部・准教授)と共同で行った研究「伊豆大島火山の爆発的な噴火時のスコリア丘形成」について、アメリカの地球物理学専門誌・Geophysical Research Lettersに掲載されたものを再編集して掲載したものです


研究の動機

スコリア丘とは?
スコリア丘とは火山の噴火でできる茶碗を伏せたような形をした小さな丘のことを言います(図1)。噴火でできる地形としては非常に一般的で、世界中に分布しています。この付近では静岡県伊東市の大室山が有名です。富士山の中腹から山麓にかけても多数のスコリア丘がみとめられます。年代が古いため浸食によって形がよくわからなくなってしまっていますが、箱根火山でもスコリア丘がいくつか見つかっています。
 現在世界中の火山学の教科書には、スコリア丘は火口丘から火山弾の放出を繰り返す比較的弱い噴火「ストロンボリ式噴火」によって放出された火山弾が積み重なってできているという説明がされています。強い噴火のときに排出される粒子は噴煙によって飛ばされるため、火山の近くにスコリア丘を形成することは不可能と考えられているからです。

 従来、スコリア丘は比較的弱い噴火の際に、火山弾と呼ばれる大きい岩石(64mm以上)が積み重なって形成されるものと考えられていました。しかし最近の研究では、スコリア丘がかならずしも火山弾のような大きい岩石だけでできている訳では無く、火山礫(64から2mm)や火山灰(2mm以下)の粒子がかなり大量に含まれている、ということが分かってきました。こうしたことから、スコリア丘にはストロンボリ式噴火のような弱い噴火ではなく、もっと強い噴火でできたものもかなりあるではないか、という考えが出されるようになってきました。

 例えば、伊豆大島の1986年噴火は全島民が島を脱出して避難生活を送った大きな噴火ですが、この際の噴火は噴煙柱の高さが12〜14kmに達する準プリニー式噴火に分類される噴火でした(図2)。この噴火では火口近くにスコリア丘が形成されました(図3)。つまり、強い噴火でスコリア丘ができた実例という訳です。今回の研究ではこのスコリア丘を形成する粒子の粒度組成を測定し、その結果を説明できるような理論モデルを構築しました。

スコリア丘が大きな噴火によって形成されることが説明できれば、火砕流の発生や噴煙の振る舞いをより高精度に計算するための基礎となるため、火山防災上非常に重要な結果となります。

野外調査

スコリア丘
図1:スコリア丘(熊本県・阿蘇火山の米塚)
伊豆大島の噴火
図2:伊豆大島の噴火(上村博道さん提供)

 粒度組成とは、どの大きさの粒子が何パーセント含まれているか、ということをしめすものです。これまでの報告は、何ミリ以上の粒子が何パーセント含まれるといったような定量的なものではなく、見た目で細かい粒子が多いという程度のものでした。本研究の結果、伊豆大島1986年噴火でできたスコリア丘は64mm以下、すなわち火山弾に分類されない小さい粒子が全体の68%を占めることが明らかになりました。

 火口から噴出した粒子は、噴煙柱を上がっていったあと遠くにまき散らされるものと、途中で落下してスコリア丘を作るものの2種類にわけることができます。野外調査の結果から、噴出された粒子全体を1としたときのうちどれくらいの割合のものがスコリア丘に行くのかを示す分配係数を求めたところ、図4のようになりました。
 次に、噴煙にのって飛ばされやすいこうした細かい粒子が、どうやってスコリア丘を作ったのかを解明するため、野外調査の結果得られた粒子の分配係数を説明できる理論モデルを作ることにしました。

理論モデル

伊豆大島のスコリア丘
図3:伊豆大島1986年噴火でできたスコリア丘と火口の空撮(白尾元理さん撮影)

 スコリア丘は上昇する噴煙から落下する粒子でできているとすると、野外調査の結果を説明するモデルを作成するためには、噴煙からの粒子の落下に関する理論モデルと噴煙の形に関する理論モデルが必要です。噴煙からの粒子の落下に関してはニューヨーク州立大学バッファロー校のバーシック教授らが1992年に提案した理論モデルを、噴煙の形に関しては現在ケンブリッジ大学のウッズ教授が1988年に構築したモデルを用いました。

 従来の研究では、噴煙の形に関してはブリストル大学のスパークス教授のモデルが使われていましたが、このモデルは膨大な熱を持つ噴煙のようなものには向いていません。ウッズ教授のモデルはマグマの持つ熱が噴煙に巻き込まれた空気に伝わり、噴煙全体が膨張する効果を再現できています。噴煙の一番下の部分では、マグマの熱により噴煙が急激に膨張します。このため、噴煙の端の傾きが緩くなっており、噴煙から離脱した粒子が噴煙にもどりにくい(小さな粒子が火口近くに落ちやすい)構造になります。このような構造が、小さな粒子が火口近くの地表にスコリア丘を作るための鍵となります。上の2つの理論モデルを採用し、粒子の落とし方を変えたいくつかのモデルケースについて数値計算を行いました。

結果

数値計算の結果
図4:計算結果.縦軸はスコリア丘への分配係数. 横軸は粒子の大きさ.

 数値計算の結果、「大きい粒子は噴煙の中側から落ちていく反面、小さい粒子は噴煙のなかでも外側の方から落ちていく」というモデル(図4のモデル3)を仮定することで、分配係数の実測値をおおむね説明できることがわかりました。また、伊豆大島の噴火では、目に見える噴煙の径(このあたりでは粒子が噴煙から離脱できる)と理論モデルから推定される噴煙の核の径の比率は2.5程度でした。モデル3では小さな粒子が噴煙から落下しだすのは噴煙の核の径の2.5倍程度と考えられ、この点でも観測とうまく一致することがわかりました。

本研究の意義

 

 本研究では、定量的に求められることがあまりなかったスコリア丘の粒度組成を詳しく求めただけでなく、その結果から噴煙の内部でどのように粒子が動くことによってスコリア丘が形成されるかを予想しています。噴煙柱のモデルは先ほど紹介してようにいくつか提案されていますが、噴煙の基底部は噴煙の上部に比べてガスや粒子の動きが複雑で、研究があまり進んでいません。しかし、本研究では噴煙の基底部であっても従来の噴煙モデルでおおむね説明可能であるとの結果が得られ、今後の研究の方向性に重要な示唆を与えるものとなっています。

 例えば富士山にあるたくさんのスコリア丘は従来大きな噴火によってできたものではないとされていましたが、神奈川県にも影響のあるような大きな噴火でできたものもある可能性が本研究で示されたことになります。今後の詳しい地質調査が必要かもしれません。
 またスコリア丘を形成する噴火は急傾斜の山腹上で火口が形成された場合、火砕流発生の原因となることが知られています。本研究の結果はこうした火砕流の発生を予測するための基礎データとしての利用も期待されます。

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