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更新日:2009年03月10日 作成者:ウェブ担当 閲覧数:4,305

アレイ解析から推定した新潟県中越沖地震の震源過程

このトピックスは、本多亮(温泉地学研究所)が青井真(防災科学技術研究所)と共同で行った、「アレイバックプロジェクション法による、新潟県中越沖地震の震源過程解析」について、アメリカ地震学会誌・Bulltein of Seismological Society of Americaに掲載されたものを再編集して掲載したものです。

引用文献:
R. Honda and S. Aoi, (2009) Array Back-Projection Imaging of the 2007 Niigataken Chuetsu-oki Earthquake Striking the World’s Largest Nuclear Power Plant, BSSA,99, 141-147,doi: 10.1785/0120080062

研究の動機

2007(平成19)年7月16日に、新潟県柏崎沖を震源としたM6.8の新潟県中越沖地震が発生しました。この地震の震源域は歪集中帯(Sagiya et al., 2000)の中に位置し、周辺では2004年新潟県中越地震や2007年能登半島地震などが発生して注目されている地域です。この地震の震源過程を明らかにすることは、このような歪集中のメカニズムの解明に重要な役割を果たすと考えられ、内陸地震の発生過程研究の発展にも寄与することが期待されます。また原子力発電所がある地域で震度6強が記録されたことも初めてであり、このような強震動の生成過程に断層破壊がどのように寄与したかを解明することは非常に重要なテーマです。

地震の震源過程の解析には従来、波形バージョン法がよく用いられます。この手法では、コンピュータを用いて計算した理論波形と、実際の観測波形の一致の具合から、地震の際に断層面上のどの部分が何メートル滑った、というように物理的な値を推定できます。しかし、今回の地震のように観測点が厚い堆積層の上や地下の構造が複雑な場所にあるときは、理論波形を正確に計算することが困難であり、正確な震源象の推定することが難しい場合があります。

歪集中帯とは?
近年のGPSによる全国的な地殻変動の解析から、新潟県西部から兵庫県あるいは北海道西部から東北西部にかけて、周辺に比べて近くの歪が大きい(変形が大きい)場所があることがわかってきました。なぜこれらの場所で歪が大きくなっているのか、プレート境界であるという説もありますが、具体的なところははっきりしていません。詳しくはこちら

手法

図1:震源断層と観測点

図1:震源断層と観測点
震源域及び柏崎刈羽原子力発電所内の観測点分布。太線の四角が仮定した断層面。▲が解析に使用した観測点。

図2:速度波形

図2:速度波形
原発内の観測点で観測された地震波形。(a)、(b)及び(c)の三つのパルス状の波が確認できる(各観測波形の対応する部分を三角で示す)。

 震央距離約16kmにある柏崎刈羽原子力発電所敷地内では、97台の地震計のうち33台で記録された本震の近地強震動の波形が公開されています。 本報告では、震源断層に近い位置で、しかも空間的に高密度な観測点配置で得られた観測記録の利点を生かすために、アレイ解析という手法を用いて断層の破壊過程を推定することにしました。
この手法では、すべり量などの絶対値を推定することはできませんが、反射波や表面波など震源由来以外の波が含まれる場合でも、比較的安定して震源を特定することができ、また破壊伝播速度も自然に求めることができます。

震源過程の解析には、観測された水平動2成分の加速度波形に1Hzから20Hzのバンドパスフィルターをかけたものを使用しました。
断層モデルはAoi et al. (2008)のモデルと同じ30km×24kmの南東傾斜の断層面を仮定し、2km四方の小断層に分割しています。小断層と観測点のペアごとに理論走時を計算し、ある小断層について成分ごとに全ての加速度波形をスラントスタック(例えばYilmaz、1987)することによって、その小断層からのコヒーレントな波だけが強調され、残りの位相はキャンセルされた重合波形ができます。これをその小断層からのエネルギーの放射履歴とみなしました。
スタッキングを行う際、振幅が大きいだけでなくよりコヒーレントな波だけを強調するために、サンプリング時間の前後0.5秒間の時間窓でセンブランス値を計算し、重みとしてスタック波形に掛け合わせるsemblance enhanced stacking法(松本ほか、1999)を用いました。

結果

図3:推定されたアスペリティ分布

図3:推定されたアスペリティ分布
(a)、(b)及び(c)は図2の中の三つのパルス状の波の震源に対応する。(d)は波形全体を使った結果。(e)はAoi et al (2007)の波形インバージョンの結果。

図4:破壊伝播の様子

図4:破壊伝播の様子
断層は、震源から南西に向かって進み、柏崎市沖で停止した。破壊伝播速度は約2450km/sと推定された。

本報告で用いた手法を応用すると、地震が発生し断層破壊が進展していく様子をほぼリアルタイムに近い形でイメージできる可能性があります。
その結果、例えば緊急地震速報で流される震度の予測(揺れはじめる時間や震度の大きさ)をより精度よく行うことができるようになるかもしれません。 神奈川県内や周辺は、東京大学のSK-netや防災科学技術研究所のK-NETなど、高密度な観測網があります。これらの観測網のデータを利用して、上にあげたような地震防災に直結するような研究が行えるかもしれません。

今後の課題・展望

 各小断層から放出されたエネルギーの相対量を比較すると、破壊の開始点付近と断層の南西部分にピークが存在し、これらが観測波形に見られる2つの大きなパルスの震源、すなわちアスペリティと推定されます。アスペリティの分布は、従来の波形インバージョンによって得られた結果(例えば、Aoi et al., 2008)と調和的です。断層破壊は、震源から南西方向に向かってunilateral(一方向)に進み、柏崎市沖で停止したことが分かりました。また破壊伝播速度は約2450m/sと推定されました。

謝辞

東京電力株式会社によって記録・配布された柏崎刈羽原発敷地内の強震動波形を使用させていただきました。記して感謝いたします

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