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更新日:2017年04月13日 作成者:ウェブ担当 閲覧数:4,709

東北地方太平洋沖地震の影響による神奈川県内の温泉・地下水の変化

このトピックスは、当所の菊川主任研究員らが行った研究のうち、学術雑誌「温泉科学」第61巻(292~298 ページ, 2012年)に掲載されたものを紹介したものです。

紹介文献:
菊川城司、板寺一洋、代田 寧、東北地方太平洋沖地震の影響による神奈川県内の温泉・地下水の変化、温泉科学、61(4), 292-298, 2012

研究成果

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)は、東日本の広い地域に深刻な被害をもたらしました。温泉に関しても、この地震の影響による温度や水位、揚湯量の変化が各地で観測されています。本稿では、東北地方太平洋沖地震前後の神奈川県内の温泉・地下水の変化について概要を報告しました。
箱根温泉における東北地方太平洋沖地震前後の揚湯量(左)、および温度(右)の変化

図1 箱根温泉における東北地方太平洋沖地震前後の揚湯量(左)、および温度(右)の変化(2010年の調査結果との比較による)

箱根温泉では、地震の影響を把握するため、2011年3月下旬から4月中旬にかけて箱根湯本地区と強羅地区に分布している源泉を調査しました。地震前の2010年の結果と比較すると、図1に示すように箱根湯本および強羅地区のどちらにおいても、揚湯量が増加、または温度が上昇した事例が多いことがわかりました。揚湯量および温度の変化と井戸深度の関係についてみると、図2のようになります。箱根湯本地区では深度500 m程度よりも浅い源泉において揚湯量の増加が目立つのに対して、強羅地区で揚湯量が増加した源泉の深度は400mよりも深く、それよりも浅い源泉では変化が認められないか、むしろ減少しています。一方、温度については、両地区とも深さが500 m程度よりも浅い源泉において上昇している事例がみられます。
箱根以外の温泉地については、聞き取り調査の結果、湯河原温泉の幾つかの源泉で、地震後に水位が上昇し、その後もその傾向が継続しましたが、温度には顕著な変化はみられなかったことがわかりました。また、県中央部の源泉や丹沢周辺の自然湧泉においても、地震の直後から顕著な水位上昇や自噴量の増加が確認されています。これらのことから、神奈川県内の温泉は、東北地方太平洋沖地震の影響により概ね水位や温度が上昇する変化を生じたものと推定されました。
2つの調査期間における揚湯量(a)および温度(b)と井戸深度の関係

図2 2つの調査期間における揚湯量(a)および温度(b)と井戸深度の関係

地下水についてみると、神奈川県西部の足柄平野周辺の6箇所に設けられた観測点のうち、南足柄、二宮、小田原、大井の4箇所において、本震後に数十cm程度水位が低下したことがわかりました。このほか、県東部の三浦半島の城ケ島において湧水が枯渇したとの情報が寄せられるなど、浅層地下水に関しては、多くの地点で水位が低下したのではないかと推定されました。
  東北地方太平洋沖地震の発生による地殻変動は、大局的には日本列島を東西に伸長させるものでした。この場合、ごく単純に考えると、温泉や地下水を含む帯水層の膨張によって、温泉あるいは地下水の水頭が低下し、それに伴って水位が低下するという変動パターンが予想されます。県内の浅層地下水については、地震後に水位が低下した事例が多く、大局的な地盤の伸長傾向と整合的です。一方、温泉については、地震後の水位上昇が報告されており、地盤の伸長傾向とは整合しません。
箱根湯本地区の源泉では揚湯量と温度の連続観測が行われています(図3)が、この源泉では、地震が発生した3月11日を挟んで、揚湯量、温度とも顕著に増加(上昇)しました。量と温度が同時に変化したことは、地殻変動による単一の帯水層の変形だけでは説明が難しく、温度の異なる複数の帯水層間における温泉水・地下水の移動を考慮する必要があると考えられます。

温泉の温度や湧出量の地震に対する応答は、温泉水の生成機構とも関連していると考えられることから、今後も検討を進めていきます。
箱根湯本地区の同一源泉における温度(a)および揚湯量(b)の推移

図3 箱根湯本地区の同一源泉における温度(a)および揚湯量(b)の推移(2010年7月から2011年6月まで)

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