多数の観測データに基づく箱根火山の活動定量化-火山活発化指数(VUI)の導入- (栗原ほか, 2026)
本トピックでは、Earth, Planets and Space誌に掲載された、多くの観測データの結果を使った火山活動の定量化についての研究を紹介します。
紹介論文:Kurihara, R., Mannen, K., Toyama, K., Honda, R., Abe, Y., Nagaoka, Y., Kikugawa, G., Miyashita, Y. and Itadera, K. Quantitative evaluation of volcanic activity at Hakone Volcano, Japan, based on multiple observational datasets: application of the Volcanic Unrest Index. Earth Planets Space (2026). https://doi.org/10.1186/s40623-026-02444-5
火山活動が活発化する際には、群発地震活動や地殻変動, 火山ガスの成分組成の変化などが発生します。近年の観測技術向上に伴い、これらの活動について様々な観測機器により観測が可能になってきました。神奈川県温泉地学研究所では、箱根火山を対象に地震観測、地殻変動観測(GPS, 傾斜など), 火山ガス観測(大涌谷, 上湯場など)を実施しており、さらなる観測技術の開発や改良にも取り組んでおります。一方で、こうした多数の観測データの取得が可能になると、従来のようにそれぞれのデータを研究員が手動で確認して活動状況を把握することには大きな労力が必要です。また、それぞれのデータによる変動状況が一致しない場合もあり、総合的に火山活動を判断することが難しくなってきました。神奈川県温泉地学研究所では、箱根火山の活動変化時などには県危機管理防災課や気象庁、箱根町などに連絡をしておりますが、活発の規模感の伝達が困難であるという課題も抱えていました。本研究では、火山活動の把握の即時化や行政機関での伝達をわかりやすくするため、ニュージーランドの研究者によって開発された火山活発化指数(Volcanic unrest index; VUI, Potter et al., 2015)という指標を応用して導入し、多種の観測データに基づき箱根火山の活動の定量化に取り組みました。
本研究では、直近45日間の観測データにおける、群発地震継続時間、地震発生数、低周波地震・火山性微動の発生状況、GNSSの長距離の基線長、箱根火山浅部での地殻変動(GNSS, 傾斜計, InSARのデータから判断)、大涌谷における地表面状況(噴気の様子)、二酸化硫黄放出量、大涌谷における火山ガス組成比、上湯場における火山ガス組成比という9つのデータを用いました。
平常時を指数「1」相当、2015年6月に発生した小規模な噴火を「3」相当とし、それぞれのデータに0-4の5段階で評価します。ただし、指数「0」は噴気が全く無くなる、地震がほとんど発生しないなど、現状の箱根火山の活動レベルより著しく低下する場合に対して用意しており、現状は1-4の4段階を利用しています。それぞれの観測データごとに1-4の4段階で判定し、適切な重みをつけて平均化することで総合指数を求めます。また、各観測項目の特性に合わせて調整しているので、実際には2015年6月の噴火直後の指数は3.1となります。
その結果、2011年移行、数年おきに発生していた箱根火山の活発化を定量的に評価することができました。2015年の噴火時で最大3.1となった一方で、2013年の活発化では最大1.9、2019年の活発化では最大1.7、2023-2024年に発生した断続的な群発地震等の活動では最大1.6といった値になりました(図1)。多くの場合でVUIの数値は2ヶ月ほどかけて徐々に上昇しており、火山活動の推移の把握も可能であることがわかりました。また、各項目の指数が現状いくつになっているのかを把握するワークシート(図2)を毎日自動で作成することで、どの観測データが現状高いのかなどを研究員がすぐに把握できるようになりました。
この指数の開発により、温泉地学研究所内での火山監視の効率化および専門分野の異なる研究員間での相互理解の進展などが図れております。今後は、県危機管理防災課・箱根町・気象庁など関係機関との連絡における、伝達の効率化、速報性や正確性の向上などにつながると考えており、実際の活用方針を検討中です。
図1. 2011年から2024年までの火山活発化指数(VUI)の推移
図2. 2023年10月24日から12月7日までの45日間のデータを使った場合(つまり2023年12月8日時点)での火山活発化指数を確認するための表
