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更新日:2018年03月02日 作成者:ウェブ担当 閲覧数:6,131

7. 特殊な地震の発生

7.1. 火山性地震

箱根火山は噴火の歴史記録がなく、噴火という意味では活発な火山とは言えません。ところが地震は他の火山と比べてかなり活発に起きています。火山の比較的浅いところ(深さ10km程度以浅)で起きる地震は火山性地震といいますが、その発生原因は色々あります。普通の地震と変わらないものを特に構造性地震とよびます。一方、マグマや熱水が動くときには、火山性微動という特殊な地震が観測される場合があります。構造性地震はP波とS波が明瞭に見られますが、火山性微動はこれが明瞭ではなく、小さい振幅の揺れが長時間続くことが特徴です。規模の小さな構造性の地震では、地震動の継続時間が数秒程度であるのとは対照的です。10Hzよりも高い周波数の成分が多い構造性の地震に比べ、今回観測された火山性微動はそれ以下の低い周波数の成分が目立ちます。箱根火山では1960年代から地震の観測を行っていますが、発生した地震はほとんどすべて構造性地震で、火山性微動は観測されたことがありませんでした。

7.2. 連続微動の発生

今回の噴火では、噴火が始まった後の6月29日16:09から、7月1日にかけて複数回、2-8Hzの周波数帯域火山性微動が観測されました(図7-1)。継続時間の長いイベントでは、数時間にわたりました。この火山性微動は主として大涌谷近傍の地震計で観測されたため、発震源は火口が生じた大涌谷近傍にあると考えられます。以上のことから、噴火に伴って地下で移動する熱水が、火山性微動の原因となっていると考えられます。

図7-1 噴火当日の周波数スペクトルの時間変動(ランニングスペクトル)。横軸は時間、縦軸は周波数で、周波数のうちエネルギーが強いもの(=振幅が大きいもの)ほど暖色系で示される。横軸は経過時間で2015年6月29日20時38分からの秒数。 (a)は大涌谷観測点、(b)は上湯場観測点。a、bとも上は地震波形、下は周波数特性を示す。パルス状波形を示す構造性地震が間欠的に発生している一方で、2から8Hzを卓越周波数とする連続したシグナル(図で横に延びる赤から黄色の部分)も見られる。これが、大涌谷近傍を発震源とする、火山性微動のシグナルだと考えられる。

7.3. 開口割れ目の貫入

噴火の際には噴火口が出来ます。噴火口はだいたい丸い形をしているので、地下には土管のような穴が空いていて、そこをマグマや熱水が移動をしているようなイメージを持たれるかも知れません。しかし、実際にはマグマや熱水の通路は板状の形をしていることがほとんどです。こうした通路を開口割れ目といいます。噴火の際、マグマや熱水は自分で開口割れ目を作って上昇します。開口割れ目が作られることを貫入といいます。この時、地震が起きるとともに地殻変動が起きます。 今回の噴火では開口割れ目を作った際に発生したとみられる、周期150秒ほどの信号が、噴火当日の午前7時32分ごろに観測されました(図7-2)。同様の信号は09時05分頃、10時16分頃、12時55分頃にも観測されました。また、同時に傾斜計に変化が見られました。総合的に考えると大涌谷から駒ヶ岳にかけて開口割れ目が貫入したと解釈できます。 また、6月29日を挟むSARの解析結果では、大涌谷から南東方向に伸びる直線を境に地盤が上下したと解釈出来る変化がありました。この変化は、開口割れ目が貫入したと考えると上手く説明が出来る可能性があります(図7-3)。 開口割れ目の体積は現在解析中ですが概ね10万立方メートル程度と考えられています。

図7-2 6月29日午前7時30分から40分の上湯場の広帯域地震計の記録と、大涌谷の地震計のエンベロープ波形(凡例を参照)。1秒ごとの値。7時32分30秒ごろの火山性微動の開始から、大涌谷の速度波形で振幅が大きくなり始めていることがわかる。一方で、上湯場の水平動の記録では、1分以上の非常に周期の長い変動が、観測されている。
図7-3 6月29日〜30日のごく小規模な噴火を挟む干渉ペアの解析結果。左図が6月18日と7月2日のペア(南行軌道)、右図が5月15日と7月10日のペア(北行軌道)。大涌谷から南東にむかう線を境に、北東側が隆起、南西側が沈降しているように見える。

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