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2001年箱根群発地震活動に伴った傾斜変動と圧力源の時間変化に関する研究

投稿者: Gaia 掲載日: 2010/2/8 (11448 回閲覧)

このトピックスは、代田主任研究員が当所で行った研究成果のうち、学術雑誌「火山」第54巻(223〜234ページ, 2009年)に掲載されたものを紹介したものです。
引用文献 : 代田 寧,棚田俊收,丹保俊哉,伊東 博,原田昌武,萬年一剛,火山 第54巻(2009) 第5号 223-234頁

概 要

 箱根火山では、2001(平成13)年6月から地震が多発し始め、約4ヶ月間にわたって活発な状態が続きました。今回の活動で特に注目すべきことは、箱根火山がわずかに隆起および膨張するような地殻変動が観測されたことです。このような地殻変動が箱根火山で捉えられたのは初めてのことでした。山体の隆起や膨張といった地殻変動は、マグマ等の流体の上昇などにより生じると考えられますので、2001年に観測された地殻変動の要因を解明することは非常に重要です。本論文では、主に当所で観測している傾斜計の観測データを用いて、モデル計算により地殻変動源の解析をおこないました。 

 解析の結果、2001年の群発地震活動に伴った地殻変動は、1つの球状圧力源と2つの浅部の開口割れ目からなるモデルにより、全期間を通じてうまく説明できることがわかりました。球状圧力源は駒ヶ岳の南東約1km、深さ7kmに位置し、開口割れ目は大涌谷浅部および駒ヶ岳浅部の2カ所にあって、その走向はそれぞれ西北西―東南東および北西−南東でした。これらの開口割れ目は、ダイクの貫入ではなく、既成のクラックが地下から上昇したガスおよび水蒸気圧によって次第に開いていったことで生じたと推察されます。本解析では開口割れ目が2つ求められましたが、実際には同方向の微小な開口割れ目がたくさん生じていて、2つの開口割れ目はそれらを代表したものであるという可能性も十分に考えられます。

今回このような解析ができたのは、地震計や傾斜計などの観測機器を設置していたからであり、地道な観測を継続していくことが重要であると考えています。

1.はじめに

 箱根火山では、2001(平成13)年6月12日17時頃から中央火口丘北側の大涌谷付近を中心とした地域で地震が多発し始め、10月初旬までの約4ヶ月間にわたって活発な状態が続きました。今回の活動で特に注目すべきことは、地震数が多かったことに加えて、箱根火山がわずかに隆起および膨張するような地殻変動が観測されたことです。このような地殻変動が箱根火山で捉えられたのは初めてのことでした。山体の隆起や膨張といった地殻変動は、マグマ等の流体の上昇などにより生じると考えられますので、2001年に観測された地殻変動の要因を解明することが非常に重要となります。本論文では、主に当所で観測している傾斜計の観測データを用いて、モデル計算により地殻変動源の解析をおこない、その解析結果を踏まえながら、噴気活動との関連や地殻変動をもたらした要因について考察しました。

2.地震活動の概要

 箱根火山では、2001(平成13)年6月12日17時頃から中央火口丘北側の大涌谷付近を中心とした地域で地震が多発し始め、10月初旬までの約4ヶ月間にわたって活発な状態が続きました。発生した地震は、震源が決定できなかったものも含めて15000回以上に達しました。これらの地震のほとんどはマグニチュード1以下の極微小地震であり、小さい地震が数多く発生したのが今回の地震活動の特徴でした。震源は南北方向に帯状の分布をし、南側から北側に向かって浅くなる傾向を示していました(図1)。また、6月29日は大涌谷付近と駒ヶ岳付近で、7月21日は大涌谷付近で1日に1000回前後の地震が発生し、とくに活発でした。一連の活動の中で、これらの日はなんらかのターニングポイントであると考えられます。

震源分布図
図1 (a) 傾斜観測点の位置、(b) 2001年6月12日から10月31日までの震源分布。KOMは駒ヶ岳観測点、KZRは湖尻観測点、KZYは小塚山観測点、SSNは裾野観測点、TNMは塔の峰観測点を示します。

3.傾斜変動の概要

  地震活動とほぼ同時期に、当所で観測している複数の傾斜計に変化が認められました(代田・他,2002)。とくに、小塚山観測点と駒ヶ岳観測点の変化が特徴的であり、地殻変動源を解析する上で重要ですので、その概要を以下にまとめます。

(1) 小塚山観測点の特徴 ・全観測点の中で、最も大きな傾斜変動を示しました。 ・地震が多発し始めた6月12日頃から北東方向に傾く変動(「北東下がり」といいます)が生じており、この変動はほぼ一定の傾き(速度)で1ヶ月以上続きました。 ・7月23日頃からは傾斜方向が北北東下がりに変わるとともに、変動が鈍化しました。この変化は、地震活動が多発した7月21日の活動に関連した変化と考えられ、この日を境に活動のピークが過ぎ、これ以後終息へ向かったと考えられます。 ・小塚山観測点は大涌谷の北東に位置しています。7月21日以降は、大涌谷付近を震源とする地震も減少し、小塚山観測点の傾斜変動が大涌谷付近の地震活動と非常に関連深いことがうかがわれます。

(2) 駒ヶ岳観測点の概要 ・地震活動の活発化に先行して、5月23日頃から南西下がりの変動が認められました。 ・5月29日頃からは西下がりの変動に変わり、その後6月24日からは北西下がりの変動に変わりました。小塚山観測点の傾斜方向がほぼ北東下がりで一定であったのに対し、駒ヶ岳観測点の変動は、南西下がり→西下がり→北西下がりと傾斜方向が変化し、非常に複雑な変動をしているのが特徴です(図2)。 ・6月24日の傾斜方向の変化は、火山活動の活発化を反映したものと考えられ、活動のステージが変わった可能性があります。そして、6月29日に地震が多発しており、この前駆的な変化と見なすこともできます。またこの日は、駒ヶ岳直下を震源とする地震も多く発生しています。

断層モデル図
図2 駒ヶ岳観測点におけるベクトル傾動図(2001年5月〜12月)。5/23頃から南西下がりの変動が始まり、5/29頃からは西下がりへ、6/24頃からは北西下がりへと傾斜変動の方向が変わりました。

4.解析の方法

  火山活動において観測された地殻変動を解析する場合、ある圧力源モデルを仮定して理論的に地殻変動を計算し、その計算値と観測値を比較することによって地殻変動の要因を推察するというのが一般的な方法です。火山活動でよく用いられる圧力源モデルは、球状圧力源モデルと開口割れ目モデルです。球状圧力源モデルは、マグマだまりや熱水だまりのような球体の圧力源が膨張あるいは収縮して地殻変動を生じるモデル、開口割れ目モデルは岩脈や熱水などが貫入することにより押し広げられて(開口して)地殻変動が生じることを想定したモデルです。

 国土地理院のGPS測量データからは、箱根カルデラを中心として隆起および膨張した観測結果が得られ(国土地理院,2002)、球状圧力源モデルでおおむね説明できます。しかし、当所で観測している傾斜計で捉えられた変化は一様ではなく、単純な山体の隆起や膨張では説明できません。そこで、球状圧力源と開口割れ目の複合モデルを仮定して、傾斜データを説明するモデルの構築をおこないました。開口割れ目は、小塚山観測点と駒ヶ岳観測点の傾斜変動をそれぞれ説明できるように2つ設定しました。なお、地殻変動源の解析には、気象研究所が開発した火山用地殻活動解析支援ソフトウェアMaGCAP-V(福井,2008)を用いました。

5.解析結果の概要

   まず、活動の全体を示すモデル(基本モデルとする)としては、駒ヶ岳の南東約1km、深さ7kmに位置する球状圧力源、大涌谷浅部(上端の深さ0.2km)の西北西−東南東走向の開口割れ目、駒ヶ岳浅部(上端の深さ0km)の北西−南東走向の開口割れ目の3つの圧力源により説明できる(計算値と観測値がよく合う)ことがわかりました(図3)。また、主として時間の経過とともに傾斜方向が変化した駒ヶ岳観測点の変動を基に、4期間に区切って圧力源の時間変化を調べた結果、全期間ともほぼ基本モデルと同様の結果が得られ、本モデルが傾斜変動の時間変化も説明できることがわかりました。すなわち、駒ヶ岳観測点における傾斜方向が南西下がりから始まり、西下がり、北西下がりへと変化していったのは、複数の圧力源が存在するのではなく、駒ヶ岳浅部の1つの開口割れ目が開口しながら広がっていったことによると考えられます。

傾斜変動図
図3 6月12日から9月9日までの傾斜変動を説明する圧力源モデル。丸が球状圧力源、二つの矩形が開口割れ目、複数の灰色の点が震源を示します。

6.考察

 2001年の活動の原因は、深部の球状圧力源によって山体が膨張し、その表層部で開口割れ目が生じたことにあると考えられます。活動が3〜4ヶ月間という長期間にわたり、その間に多数の地震が発生していることから、解析によって推定された2枚の開口割れ目は、多くの開口割れ目の最大規模のもの、あるいは小さな開口割れ目の積分を表していると考えることもできます。

 開口割れ目の走向は、大涌谷浅部では西北西−東南東、駒ヶ岳浅部では北西−南東であり、この地域の広域の応力場とおおむね調和的であると言えます。また、地震波形の解析結果から示されたクラックの方向(本多・棚田,2006)や神山山頂付近に見られる割れ目状凹地の方向ともほぼ一致していました。これらのことに加え、新たに形成された噴気域(棚田・他,2008)や、火山ガス組成の変化(大場・他,2007)などの知見から、大涌谷では、深部の圧力上昇によって、かつての岩脈貫入跡の微小なクラックに流体が上昇・流入するか、あるいはそこに貯留されていた水が気化して膨張し、地震を多発させるとともにクラックを開口させて地殻変動をもたらしたものと推察しています。さらに、今回の地震はごく浅いところから発生し、浅部へのダイク貫入でよくみられるような深部から徐々に浅くなる震源の移動が認められないことも、ダイクが浅部に貫入したわけではないことを示していると考えています。

7.まとめ

 2001年の群発地震活動に伴った地殻変動は、1つの球状圧力源と2つの浅部の開口割れ目からなるモデルにより、全期間を通じてうまく説明できることがわかりました。球状圧力源は駒ヶ岳の南東約1km、深さ7kmに位置し、開口割れ目は大涌谷浅部および駒ヶ岳浅部の2カ所にあって、その走向はそれぞれ西北西―東南東および北西−南東でした。また、時間の経過に伴って駒ヶ岳観測点の傾斜方向が変化していくことも、同じ開口割れ目の拡張で説明できる点が本モデルの特長といえます。これらの開口割れ目は、ダイクの貫入ではなく、既成のクラックが地下から上昇したガスおよび水蒸気圧によって次第に開いていったことで生じたと考えています。本解析では開口割れ目が2つ求められましたが、実際には同方向の微小な開口割れ目がたくさん生じていて、2つの開口割れ目はそれらを代表したものであるという可能性も十分に考えられます。

謝辞

防災科学技術研究所の岡田義光理事長ならびに山本英二主任研究員、上田英樹博士には傾斜計データの解析にあたってご助言いただきました。解析にあたっては、GEONETのデータを使用させていただくとともに、気象研究所が開発した火山用地殻活動解析支援ソフトウェアMaGCAP-Vを利用させていただきました。ここに記して感謝の意を表します。

引用文献

代田 寧・棚田俊收・伊東 博 (2002) 2001(平成13)年箱根群発地震活動に関連した地殻傾斜変動.神奈川県温泉地学研究所報告,34,35-44.
福井敬一 (2008) 火山用地殻活動解析支援ソフトウェアの開発.気象研究所技術報告第53号「火山活動評価手法の開発研究」,123-140.
本多 亮・棚田俊收 (2006) S波スプリティングの解析から明らかになった神奈川県西部地域の異方性の空間的・時間的変化.神奈川県温泉地学研究所報告,38,47-52.
国土地理院 (2002) 箱根山とその周辺地域の地殻変動.火山噴火予知連絡会会報,80,34-40.
大場 武・澤 毅・平 徳泰 (2007) 箱根大涌谷地熱地帯における火山ガスの化学組成および同位体比の変化.地球惑星科学関連学会2007年合同大会講演予稿集.
棚田俊收・代田 寧・原田昌武 (2005) 2001年箱根群発地震活動と箱根大涌谷北側斜面における新たな噴気活動との関係について.日本地震学会2005年度秋季大会講演予稿集,P035.
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