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箱根火山地震の発生メカニズムに関する研究

投稿者: Gaia 掲載日: 2012/6/7 (11073 回閲覧)

このトッピクスは、アメリカ地球物理学会発行「Journal of Geophysical Research」に掲載された行竹洋平・伊東博・本多亮・原田昌武・棚田俊收・吉田明夫の共著による論文「高精度な震源およびメカニズム解分布から明らかになった箱根火山群発地震と地殻流体との関係」について紹介したものです。


1.箱根火山と群発地震

 箱根火山では、しばしば群発的な地震活動(群発地震)が観測されます。規模の大きな地震活動が発生した場合、時には箱根カルデラ内で有感地震が発生することもあり、群発地震の発生するメカニズムを明らかにすることは、重要な研究課題の一つとなっています。これまで、群発地震の発生メカニズムには、地下深部からの高圧の熱水(一部はカルデラ内に温泉として湧出)が密接に関係していることを指摘した研究がいくつかありますが(例えば、Oki and Hirano (1970)など)、定量的な検証には至っていませんでした。

 この研究では地震学的手法を用いて、この研究課題の解明に挑みました。ターゲットとしたのは2009年8月4日から約10日間の間に、箱根の湖尻周辺で起こった非常に活発な群発地震活動です。8月4日から12日までの間で、発生したイベントは1749個におよび、この期間中8月6日6時2分にマグニチュード3.2の地震が発生しました。

 この研究では、温地研の通常の処理で得られた震源の位置を、新たな手法と非常に高密度な地震観測網データを使って従来の研究よりもさらに精度良く決定することを行いました。一連の群発地震活動の震源はどのような分布をしているのか、またその活動域が時間的にどのように変化するのかを明らかにすることにより、この群発地震が発生したメカニズムについて考察を行いました。

2.データおよび手法

 この研究のポイントの一つに、群発地震が発生している時に、活動域の周辺に非常に高密度な地震観測網が構築されていたことがあります。箱根カルデラ内およびその周辺域では、温地研、防災科研Hi-net、東京大学地震研究所、気象庁により、15点の常設の観測点が設置されております。ここでは、これらの常設の地震観測点に加えて、群発地震が発生する前から設置していた14点の機動的な地震観測点のデータも使用しました(図1)。これらの地震観測点と定常地震観測点を合わせることにより、非常に高品質のデータを取得することができ、より空間分解能の細かな議論が可能になりました。

 もう一つのポイントは、震源を精度よく決定するため、Double Difference(DD)法という手法を用いた点です。通常震源を決める場合、観測点で記録された地震波の到達時間を使います。DD法では、近接して発生した地震の到達時刻の差を使って震源を決定します。この手法を用いることにより、通常の処理と比較して飛躍的に震源の決定精度を向上することができます。

観測点分布図

図1
箱根カルデラ域に構築された観測点分布。■が機動的な観測点の位置を表します。右図の□で囲まれた領域は、2009年8月の群発地震発生域を表します。

3.群発地震の震源分布の特徴と活動域の時間変化

 上記の高品質な地震データおよびDD法を用いて、震源を決定した結果非常に興味深いことが明らかになりました。群発地震の活動域は3つのかたまりに分かれ、それぞれのかたまりで地震が長さ数100mから1kmのほぼ鉛直な面の上に集中して分布しているという点です(図2)。さらに、それぞれの面から幅約50m以内の非常に狭いゾーンに地震が集中して分布していることも明らかになりました。これまで箱根カルデラ内で発生した群発地震活動の多くは、ほぼ鉛直な面に集中して分布していることが先行研究から明らかになっておりますが(Yukutake et al. 2010)、今回の結果はそれを裏付けるものです。

震源分布図

図2
高密度な地震観測データを用いて決定された群発地震の震源分布。
(a)震央分布図を表します。プロットの色は地震が発生した時期に対応し、赤色ほど活動初期、青色ほど活動の終わりに発生した地震を表します。
(b)図2(a)のA-B〜G-H測線について各測線に沿った震源深さ断面図を表し、それぞれのプロットの縦軸は深さ、横軸は各測線方向の距離を表します。A-B、C-D、H-G測線に沿った震源プロットの+印は、各領域で最初に発生した地震の位置を表します。

さらに、3つの活動域それぞれで、面上に分布している地震活動域に着目してみると、地震活動域が時間と共に変化していることが分かりました。地震が発生する領域は、ある地点から始まって、そこから時間とともに拡散してくような時間変化をしていることが分かりました(図3)。

時間・空間分布

図3
A-B、C-D、H-G測線に沿った地震活動について、最初に発生したイベント(図2+印)からの経過時間を横軸に、縦軸にそのイベントからの距離をとった時間−空間分布を表します。図中の放物線は、流体が拡散していくときに理論的に予測される地震活動域の広がりを示しています。地震活動域が放物線で近似できるような形状で広がっていることは、一連の地震活動が地殻流体の拡散によって誘発されたことを示唆しています。

4.観測結果に基づいた群発地震発生モデル

 これらの現象を説明できる一つのモデルとして、高圧な地殻内の流体(熱水)が断層破砕帯に陥入し、それが拡散していくことにより群発地震が誘発された可能性が挙げられます。断層破砕帯は、一般的にまわりの岩盤と比較して桁違いに流体を通しやすいという性質があり、また観測された地震活動域の拡散の速さは、過去の研究で推定された断層破砕帯内を拡散する流体の速さと概ね調和的だからです。箱根の群発地震については、古くからOki and Hirano (1970)などの研究により、地下の高圧流体(熱水)の移動により誘発される可能性について議論されてきました。また、(Yukutake et al. 2010)では、群発地震の震源分布から、その可能性について言及しております。今回得られた研究結果は、このような群発地震と地殻流体との関係を裏付けるものかもしれません。

 この研究では2009年に発生した地震活動の結果に基づいてモデルを考察しましたが、箱根ではこの期間以外にも活発な群発地震活動が観測されています。今後の課題として、さまざまな期間の活動に対してもこのモデルが適用できるのかどうかを調べ、モデルを検証するとともにさらなる定量化を行っていく必要があります。さらにその次の段階として、モデルに基づいて地震活動の時間的推移を予測する手法を確立し、火山活動の定量的な評価に役立てたいと考えています。

群発地震発生模式図

図4
本研究結果から考えられる群発地震発生モデルを表した模式図。地下深部のマグマ溜まりから供給された高圧の熱水が、浅い領域に存在する断層破砕帯構造に陥入(群発地震発生準備期)、あるタイミングで高圧の熱水が断層破砕帯内を拡散するときに地震が誘発される(群発地震発生時)と考えると観測結果を比較的うまく説明できます。断層破砕帯は、一般的にまわりの岩盤と比較して流体を通しやすい性質があるため、地下深部からの熱水が浅い領域に供給されるのに重要な役割を果たしていると考えられます。

謝辞

 本研究は平成21年度神奈川県地域科学技術振興事業(重点基礎研究)の一部として実施されました。臨時観測の際の観測点の設置には、箱根町、三島市、株式会社プリンスホテルにご協力をいただきました。臨時観測用のセンサー及びロガーの一部は、名古屋大学の田所氏よりお借りいたしました。本研究を行うにあたり、防災科研Hi-net、東京大学地震研究所の地震波形データを使用させていただきました。記して感謝いたします。

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