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更新日:2017年02月07日 作成者:ウェブ担当 閲覧数:4,707

箱根強羅の温泉水に関する研究

このトピックスは、当所の板寺一洋主任研究員らが行った研究のうち、学術雑誌「温泉科学」第60巻(4号)(459~480ページ, 2011年)に掲載されたものを紹介したものです。

紹介文献:
酸素同位体比および主要アニオンから見た箱根強羅温泉水の成因、板寺一洋 菊川城司 吉田明夫、温泉科学第60巻第4号(2011), 459-480

研究成果

Oki and Hirano(1970)は、箱根に分布する温泉水を、主要陰イオン組成をもとに4つのタイプに区分し、その地理的な分布や箱根火山の構造等を総合した温泉成因モデル(大木・平野モデル)を提唱しました。大木・平野モデルによる温泉の分類のうち、強羅地域にゆう出する温泉について、菊川ほか(2011)は、塩化物イオン濃度と温度との関係や、主要陰イオン組成の特徴に基づいて、新たな6つのタイプ分けを提案しました。

本研究は、水の由来により異なる値を示す酸素同位体比と主要陰イオン濃度とに着目し、菊川ほか(2011)が分類した6つのタイプのそれぞれについて、温泉水の成因について考察しました。その概要は次のとおりです。タイプ1の温泉水は大木・平野モデルで火山性熱水の供給によるとした高温の塩化物泉(第Ⅲ帯の温泉水)にほぼ対応しますが、その分布域は火山性熱水の混入した地下水の流れを示してはいないと見られます。タイプ2の温泉水は大木・平野モデルの第Ⅳ帯の温泉水にほぼ対応しますが、第Ⅲ帯の温泉水が流下する間に地下水との混合が進んだのではなく、蛇骨川上流域に湧出するタイプ1の温泉水と、周辺の浅層地下水との混合によって生成していると推定されました。
大木・平野モデルと温泉の4分帯。

図1 大木・平野モデルと温泉の4分帯。

温泉水の酸素同位体比と(a)塩化物イオン濃度、(b)硫酸イオン濃度、(c)重炭酸イオン濃度の関係と菊川ほか(2011)によるタイプの別。

図2 温泉水の酸素同位体比と(a)塩化物イオン濃度、(b)硫酸イオン濃度、(c)重炭酸イオン濃度の関係と菊川ほか(2011)によるタイプの別。

菊川ほか(2011)は、大木・平野モデルの第Ⅱ帯および第Ⅳ帯に属する温泉水をタイプ3から6に再区分しています。大木・平野モデルでは、これらの温泉水に含まれるSO42-は中央火口丘付近の噴気域から放出されるH2Sの酸化を、HCO3-は火山噴出物に取り込まれた有機物を、それぞれ起源とすると考えましたが、酸素同位体比とそれぞれのイオン濃度との関係から、どちらも火山ガスに由来する可能性があることがわかりました。SO42-をほとんど含まないタイプ4については、含まれる二酸化炭素の多少によらず、酸素同位体比がほぼ一定の値を示すことから、火山ガスの寄与はあっても小さいと推定されました。本研究で検討した菊川ほか(2011)による6タイプの温泉水の成因と、従来の大木・平野モデルの温泉水の成因の関係について図にまとめました。
大木・平野モデルの4分帯と本研究で推定した温泉水の成因の比較。

図3 大木・平野モデルの4分帯と本研究で推定した温泉水の成因の比較。

参考文献

  • 菊川城司 板寺一洋 吉田明夫、温泉科学第60巻第4号(2011),445-458頁
  • Oki, Y. and Hirano, T., Geothemics Sp. Issue 2, (1970)1157-1166.

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