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更新日:2020年05月15日 作成者:ウェブ管理者 閲覧数:3,115

I−4−(4). 温泉の作用

(1) 温泉の作用

 温泉の作用は、疲労を回復させる「休養」、健康を保持し病気を予防する「保養」、病気を治療する「療養」の3つに分類することができ、これを温泉の三養と呼んでいます。
 まず、温泉に入浴する効果として、温熱・浮力・水圧などによる物理的効果があげられます。次の効果として、温泉の含有成分による化学的効果と変調効果の二つがあげられます。
 そして温泉地の効果として、温泉地の地形、気候、植生など精神的効果があげられます。これは温泉地の環境として紫外線やイオン、気圧や森林浴効果など、まわりの自然環境が大きく作用しているようです。 このように、温泉および温泉地の効果は、温泉そのものの効果の他に温泉地の自然・気候など環境による効果、そして、食事や運動などの総合的な効果として現れるものであるといわれています。


(2) 泉質別適応症

 温泉は古くから病気やけがの治療効果があるとされ、医学では「温泉療養」として認められています。特に温泉療養の効果が期待できる病気や症状を「適応症」といい、逆に温泉療養がマイナスになるものを「禁忌症(きんきしょう)」と呼びます。したがって温泉療養を行う場合には自己診断だけでなく、医師の指導を受けることが大切です。
 また、入浴する前に注意事項が書いてある、掲示証を読むことが必要です。
    
<療養泉の一般的適応症(浴用)>
筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、末梢循環障害、胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)、軽症高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、軽い喘息又は肺気腫、痔の痛み、自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進
 
温泉の泉質別適応症
泉質 浴用 飲用
単純温泉 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態
塩化物泉 きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 萎縮性胃炎、便秘
炭酸水素塩泉 きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症 胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常(糖尿病)、高尿酸血症(痛風)
硫酸塩泉 きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘
二酸化炭素泉 きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症 胃腸機能低下
含鉄泉 鉄欠乏性貧血
酸性泉 アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症
含よう素泉 高コレステロール血症
硫黄泉 アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症 耐糖能異常(糖尿病)、高コレステロール血症
硫黄泉(硫化水素型) 末梢循環障害
放射能泉 高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、硬直性脊髄炎、慢性胆嚢炎など
上記のうち二つ以上に該当する場合 該当するすべての適応症 該当するすべての適応症

(3) 温泉の一般的禁忌症及び泉質別禁忌症 

 温泉療養をしてはいけない病気や症状のことを「禁忌症(きんきしょう)」といいます。温泉療養をしてはいけない病気や症状も少なくありません。温泉療養を行う際は自己診断だけではなく、医師の指導を受けることが望ましいと思われます。
 
 <一般的禁忌症>(浴用)
病気の活動期(特に熱のあるとき)、活動性の結核、進行した悪性腫瘍又は高度の貧血など身体衰弱の著しい場合、少し動くと息苦しくなるような重い心臓病又は肺の病気、むくみのあるような重い腎臓の病気、消化管出血、目に見える出血があるとき、慢性の病気の急性増悪期

温泉の泉質別禁忌症
泉質 浴用 飲用
酸性泉 皮膚又は粘膜の敏感な人、高齢者の皮膚乾燥症
硫黄泉 皮膚又は粘膜の敏感な人、高齢者の皮膚乾燥症
ナトリウムイオンを含む温泉を 1日 (1200/A)×1000mLを超えて飲用する場合 塩分制限の必要な病態
(腎不全、心不全、肝硬変、虚血性心疾患、高血圧など)
カリウムイオンを含む温泉を1日 (900/A)×1000mLを超えて飲用する場合 カリウム制限の必要な病態
(腎不全、副腎皮質機能低下症)
マグネシウムイオンを含む温泉を 1日 (300/A)×1000mLを超えて飲用する場合 下痢、腎不全
よう化物イオンを含む温泉を1日 (0.1/A)×1000mLを超えて飲用する場合 甲状腺機能亢進症
(飲泉に関して)
上記のうち、二つ以上に該当する場合
該当するすべての禁忌症
※表中のAは、温泉1kg中に含まれる各成分の重量(mg)を指す。

(4) 浴用の方法及び注意

  温泉の浴用は、以下の事項を守って行う必要がある。
ア.入浴前の注意
  (ア)食事の直前、直後及び飲酒後の入浴は避けること。酩酊状態での入浴は特に避けること。
  (イ)過度の疲労時には身体を休めること。
  (ウ)運動後 30分程度の間は身体を休めること。
  (エ)高齢者、子供及び身体の不自由な人は、1人での入浴は避けることが望ましいこと。
  (オ)浴槽に入る前に、手足から掛け湯をして温度に慣らすとともに、身体を洗い流すこと。
  (カ)入浴時、特に起床直後の入浴時などは脱水症状等にならないよう、あらかじめコップ一杯程度の水分を補給しておくこと。
イ.入浴方法
  (ア)入浴温度
      高齢者、高血圧症若しくは心臓病の人又は脳卒中を経験した人は、42°C以上の高温浴は避けること。
  (イ)入浴形態
      心肺機能の低下している人は、全身浴よりも半身浴又は部分浴が望ましいこと。  (ウ)入浴回数
      入浴開始後数日間は、1日当たり1~2回とし、慣れてきたら2~3回まで増やしてもよいこと。
  (エ)入浴時間
      入浴温度により異なるが、1回当たり、初めは3~10分程度とし、慣れてきたら15~20分程度まで延長してもよいこと。
ウ.入浴中の注意
  (ア)運動浴を除き、一般に手足を軽く動かす程度にして静かに入浴すること。
  (イ)浴槽から出る時は、立ちくらみを起こさないようにゆっくり出ること。
  (ウ)めまいが生じ、又は気分が不良となった時は、近くの人に助けを求めつつ、浴槽から頭を低い位置に保ってゆっくり出て、横になって回復を待つこと。
エ.入浴後の注意
  (ア)身体に付着した温泉成分を温水で洗い流さず、タオルで水分を拭き取り、着衣の上、保温及び30分程度の安静を心がけること(ただし、肌の弱い人は、刺激の強い泉質(例えば酸性泉や硫黄泉等)や必要に応じて塩素消毒等が行われている場合には、温泉成分等を温水で洗い流した方がよいこと。)。
  (イ)脱水症状等を避けるため、コップ一杯程度の水分を補給すること。
オ.湯あたり
    温泉療養開始後おおむね3日~1週間前後に、気分不快、不眠若しくは消化器症状等の湯あたり症状又は皮膚炎などが現れることがある。このような状態が現れている間は、入浴を中止するか、又は回数を減らし、このような状態からの回復を待つこと。
カ .その他
    浴槽水の清潔を保つため、浴槽にタオルは入れないこと。

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