GNSS解析による伊豆衝突帯の地殻変動に関する研究
本トピックではGeological Society, London, Special Publicationに掲載された、GNSS(GPS)解析による伊豆衝突帯の地殻変動に関する研究論文を紹介します。この研究は、道家技師が筆頭著者となり、温泉地学研究所職員と気象庁の宮岡一樹氏、静岡大学の里村幹夫氏と共同で進めたものです。
研究の背景
GNSS観測により明らかとなった伊豆衝突帯の変形
図1にGNSS観測による伊豆半島周辺の地殻変動を示したベクトル図を示します。この図は、国土地理院によるGNSS観測点の内、函南観測点を固定点とし、各観測点がどの方向にどれだけ変位しているかを示した図です。この図で特徴的なことは、伊豆半島の北部を南北に走る北伊豆断層帯(丹那断層など)を境に変位の傾向が大きく変わることです。すなわち、北伊豆断層帯の西側ではあまり変化が見られないのに対し、東側では、東にある観測点ほど北向きの変位が大きくなります。
図2には、横軸に東西方向の距離をとって、縦軸に各観測点の北向き変位速度をとったグラフを示しています。色の違いは観測された年代の違いを示しています。この図を見ると、北伊豆断層帯の東側の幅およそ20kmで北向き変位速度が大きく変化していることがわかります。これは、この幅約20kmの地帯が南北方向に左横ずれするような剪断(せんだん)変形をしているということを示しています。加えて、この変形は、期間に依らず観測されていることから、GNSS観測における時間スケール(数年〜十数年)において継続しているものと考えられます。
横軸は、GEONET函南観測点からの東向き方向の距離(正が東、負が西)を示す。凡例に示した3年間ごとの変位速度についてプロットしている。
今後の課題
この地域で発生する地震を説明するモデルとして、従来、衝突する伊豆半島と相模湾で沈み込むフィリピン海プレートのギャップに起因する断裂によるモデルが提案されています。しかしながら、今回の地殻変動の解析結果からは、このギャップは、単一の断裂ではなく幅を持った剪断帯によって、その変形が担われていることがわかりました。この地域の地殻変動を説明する概念的なモデルについては、この論文でも検討を行いましたが、他のデータを合わせてより詳細なモデルを検討していくことが今後の課題と言えます。
謝辞
観測点を設置させて頂いている関係機関の方々にはこの場を借りてお礼申し上げます。また、本研究には、気象庁および国土地理院による観測データを使用しました。ここに記して感謝いたします。