東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日 M9.0)の箱根温泉への影響について
はじめに
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)は、岩手、宮城、福島をはじめ東日本の広い地域に深刻な被害をもたらしました。この地震後に、箱根地域の温泉にも影響があったとの情報が寄せられたことから、温泉地学研究所では、地震前後で温泉に現れた変化について調査を行いました。以下、その結果の概要を示します。
湯量・温度の変化
調査は、主に箱根の湯本地区と強羅地区の温泉を対象としました。図1は、平成23年3月下旬から4月中旬に実施した調査結果による温泉の湯量と温度のデータを、地震前のデータと比較し、湯量の増加した井戸・減少した井戸、および温度が上昇した井戸・低下した井戸の分布状況を示しています。湯本、強羅地域とも、湯量が増加した、あるいは温度が上昇した温泉が多かったことがわかります。
図2は、横軸に湯量の増減、縦軸に温度変化をとり、両者の関係を示したグラフです。
図2によれば、湯量の変化と温度変化の間には明瞭な関係性が見られませんが、湯本地区、強羅地区で概ね1から2度程度、温泉温度が上昇したことや、一部の温泉で、地震後に湯量が大きく増加したこと、全ての源泉に大きな影響がみられたわけではないことなどがわかります。
図2によれば、湯量の変化と温度変化の間には明瞭な関係性が見られませんが、湯本地区、強羅地区で概ね1から2度程度、温泉温度が上昇したことや、一部の温泉で、地震後に湯量が大きく増加したこと、全ての源泉に大きな影響がみられたわけではないことなどがわかります。
今回の調査は、箱根地域にあるすべての井戸を対象としたものではないことや、地震直前のデータと比較したものではないことに注意が必要です。また、井戸の中には、地震の発生前に、井戸のメンテナンス工事を実施したところもあり、その影響を考慮しなければならず、今後の検討課題と考えています。
連続観測の結果
図1や図2に示したのは、その都度現地を訪れた調査の結果によるもので、地震発生との時間的な前後関係や、その後の推移まで把握することができません。そこで、温泉地学研究所が計器を設置して行っている連続観測の結果についてみることにします。
温泉地学研究所では、図3にYUMと示した場所の温泉(自然湧泉)に温度計を設置し、温度の変化を5分間隔で記録しています。
温泉地学研究所では、図3にYUMと示した場所の温泉(自然湧泉)に温度計を設置し、温度の変化を5分間隔で記録しています。
図4に、2011年1月1日以降の、この温泉温度の推移を示しました。横軸の1目盛りは1日を示しています。図4から、この温泉の温度は、若干の変動はあったもののおよそ39℃で推移していましたが、矢印で示した地震の発生直後から上昇し、2から3日かけて40.7から40.8℃まで到達した後、横ばい傾向となっていたことがわかります。この横ばい傾向は、現在も続いていると見られます。
図3の観測点から2kmほど離れた場所では、地下水位が地震の直後から1.5mほど上昇し、3月15日ごろから横ばい傾向になった様子が観測されました(図5)。
図4と図5の結果から、図1や2に示した地震の影響による温泉の湯量の増加や温度の上昇は、地震が発生した3月11日以降、2〜3日程度続き、その後は、横ばい傾向に転じたものであったと推察されます。
こうした変化を生じた詳しい仕組みについては不明ですが、3月11日の、非常に大きな地震やそれに伴う地殻変動により、温泉や地下水を含む帯水層が影響を受け、量(水位)や温度が変化したものと見られます。また、これらの変化が地震後数日で横ばい傾向に転じたことから、箱根火山の活動の活発化を示すものではないと考えられます。
今回の変化は一過性のものである可能性もあるので、今後の推移にも注目する必要があります。
こうした変化を生じた詳しい仕組みについては不明ですが、3月11日の、非常に大きな地震やそれに伴う地殻変動により、温泉や地下水を含む帯水層が影響を受け、量(水位)や温度が変化したものと見られます。また、これらの変化が地震後数日で横ばい傾向に転じたことから、箱根火山の活動の活発化を示すものではないと考えられます。
今回の変化は一過性のものである可能性もあるので、今後の推移にも注目する必要があります。
謝辞
調査は、小田原保健福祉事務所温泉課の協力の下実施しました。また、温泉所有者の皆さまには、調査の主旨をご理解いただき、快く調査の機会を提供いただきました。関係各位に記して感謝申し上げます。