日本火山学会論文賞の受賞について
温泉地学研究所の職員による研究論文が、日本火山学会2019年度論文賞を受賞しました。
受賞対象論文と受賞理由は以下の通りです。
日本火山学会2019年度論文賞
道家 涼介、原田 昌武、萬年 一剛、板寺 一洋(神奈川県温泉地学研究所)、竹中 潤(気象庁)
Ryosuke Doke, Masatake Harada, Kazutaka Mannen, Kazuhiro Itadera and Jun Takenaka (2018) InSAR analysis for detecting the route of hydrothermal fluid to the surface during the 2015 phreatic eruption of Hakone Volcano, Japan ,DOI="10.1186/s40623-018-0834-4"
箱根火山2015年水蒸気噴火時の干渉SAR解析によって捉えられた地表面変位に関する研究論文である。
箱根火山では、2015年6月29日~7月1日かけて、大涌谷で水蒸気噴火が発生した。その際、傾斜計のデータなどから、大涌谷の周辺地域で開口割れ目状に熱水が貫入したことは明らかであったが、地下での詳細な動きは不明であった。著者らは、ALOS2のPALSAR-2センサーのデータを使用してIn-SAR解析を行い、大涌谷の小噴火地点で、噴火前に局所的に衛星に近づく変位(約6 cm)があり、さらに大涌谷から南東方向に向かって、衛星に近づく場所と衛星から遠ざかる場所が直線状に分布し、変化する様子も捉えた。その後、膨張源についてのインバージョン計算を行い、大涌谷直下の極めて浅いところの熱水だまりの局所的な膨張、その南東の直線状の地表面変位は、開口割れ目状に熱水が貫入したものと推定した。また、大涌谷の近くにある強羅地域の地質や温泉の研究から、地下にあった熱水がその上(海抜約530~830m付近)の割れ目に移動し、さらに大涌谷の直下の熱水だまりを膨張させ、水蒸気噴火に至ったとモデルを構築した。
大涌谷周辺の微地形と比較すると、今回、熱水の通路として推定された割れ目の位置は、既存の亀裂(過去の噴火時に形成された噴火口の列)と一致することを明らかにした。
本論文は、In-SARによる変形の詳細な観測結果から、地下構造モデルを推定し、さらに既往の地質構造や地表に見られる小火口列の方向も合わせて詳細な考察を加えており、地球物理的な観測成果と、地下地質野、微地形に残る火山活動の痕跡まで合わせて考察を加えている点が優れている。また、今後、In-SARによる連続的な変形の観測が、局地的な水蒸気噴火の前兆をとらえられる可能性を示した。
以上の理由から、本論文を、日本火山学会論文賞として推薦する。
なお、本論文の日本語の解説記事を以下よりご覧になれます。
箱根火山2015年水蒸気噴火時の地表面変位に関する研究(道家ほか、2018)