地質学的解析と比抵抗構造に基づく2015年箱根火山水蒸気噴火の給源
本トピックでは Earth, Planets and Space (通常号)に掲載された、箱根火山2015年噴火の元となった熱水があった場所(=給源)に関する研究論文を紹介します。この研究は、萬年一剛主任研究員が筆頭著者となり、防災科学技術研究所の棚田俊收氏(元当所主任研究員)、有限会社ネオサイエンスの城森明氏、地熱エンジニアリング株式会社の赤塚貴史氏、当所の菊川城司専門研究員、東京学芸大学の深沢結衣氏、藤本光一郎教授、神奈川県立生命の星・地球博物館の山下浩之氏との共同研究としてまとめたものです。
紹介文献:
Mannen, K., Tanada, T., Jomori, A., Akatsuka, T., Kikugawa, G., Fukazawa, Y., Yamashita, H., and Fujimoto, K. (2019) Source constraints for the 2015 phreatic eruption of Hakone volcano, Japan, based on geological analysis and resistivity structure. Earth, Planets and Space. 71:135. https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-019-1116-5
論文の概要
水蒸気噴火は火山の地下にある熱水(=マグマに熱せられた水や蒸気)が地表にもたらされることで、爆発的に膨脹して引き起こされます。しかし、熱水が火山直下のどこにあるか、具体的にわかっている事例はあまり多くありません。
大涌谷では比抵抗構造探査という、地下の電気の通りやすさを明らかにする調査を2008年以降、何年か一度のペースで実施していました。これらの結果と、噴火後の2018年に実施した同じ調査の結果を比較したところ、地下150m付近に比抵抗が高い部分(=電気が通りにくい部分)があり、2018年の調査ではその部分が広がるとともに、比抵抗がより高くなっている(=より電気が通りにくくなっている)ことがわかりました。地下にある岩石の電気の通りやすさはあまり変わらないはずなので、このような変化は岩石の隙間にある水が蒸気に変化したことで説明をせざるを得ません。つまり、大涌谷の地下150m付近ではもともと岩石の隙間に蒸気があり、噴火後にその量が増えたと推定されました。この蒸気が溜まっている部分のことを、本論文では蒸気ポケットと呼んでいます。
蒸気ポケットと地表の間にある地層は、スメクタイトという粘土鉱物と、蒸気から直接結晶化する多種類の鉱物から出来ていることがわかりました。粘土鉱物が増えると、蒸気や水が通りにくくなりますが、たとえ何かの都合で蒸気の通路が出来ても、蒸気に含まれる鉱物がその通路を塞いだと考えられます。つまり、蒸気ポケットと地表との間には、蒸気や水を通さないバリア(地質用語ではキャップロック)があるのです。さらに箱根火山2015年噴火の火山灰を分析したところ、鉱物の組成から蒸気ポケットと地表との間にあるバリアからもたらされたものが大半であることがわかりました。
箱根火山の2015年噴火では道家・他(2018)の研究で大涌谷直下100m(標高約900m)のところで噴火の2ヶ月前頃から膨脹が始まり、噴火後は膨脹が止んだことが衛星SARの観測で明らかになっていました。同様の結果は国土地理院の研究グループによっても得られていますが、この膨脹源は蒸気ポケットであったと考えるのが素直です。
以上のことから、大涌谷では地下150m付近に蒸気ポケットが前から存在し、噴火前にそれが膨脹したこと。また、噴火では蒸気ポケットの蒸気とともに地表との間にあるバリアが壊されて火山灰として噴出したことがわかりました。