風によってたなびく噴煙からの降灰シミュレーション
本トピックでは 米国地球物理学連合が発行するJournal of Geophysical Research: Solid Earthに掲載された、降灰シミュレーションに関する研究論文を紹介します。この研究は、萬年一剛主任研究員が筆頭著者となり、熊本大学の長谷中利昭・宮縁育夫両教授、千葉大学の樋口篤志准教授、神戸大学の清杉孝司講師との共同研究としてまとめたものです。
紹介文献:
Mannen, K., Hasenaka, T., Higuchi, A., Kiyosugi, K., & Miyabuchi, Y. (2020). Simulations of tephra fall deposits from a bending eruption plume and the optimum model for particle release. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 125, e2019JB018902. https://doi.org/10.1029/2019JB018902
論文の概要
火山灰は広範囲に交通障害をはじめとする社会的な影響をおよぼすため、精度の良いシミュレーション技術の確立が望まれています。しかし、既存のシミュレーションは、火口近傍と風下遠方の両方で同時に精度の高い降灰を予測することが苦手でした。この理由のひとつとして、既存のシミュレーションでは、火山灰が火口から垂直に立ち上がる噴煙を起源にしているという仮定に基づいていることが挙げられます。実際の噴煙を観察すると、噴煙は風で簡単に曲がり、曲がった先から火山灰が落下しているのが見えるので、この仮定は間違いです。そこで、本研究では風の影響で曲がった噴煙と、そこから落下する火山灰の分布をシミュレーションするコード(コンピュータプログラム)、WTを新しく開発しました。しかし、WTを作ったからと言って、すぐに降灰が精度良く再現できるわけではありません。なぜなら、噴煙のどこからどれだけの粒子が落下しているかがわからないからです。
そこで、本研究では新しく作ったコードの動作検証も兼ねて、霧島火山新燃岳で2011年に起きた噴火の降灰分布と当時の気象状況から、噴火の起きた時刻と、噴煙高度、そして噴煙のどこからどれだけの粒子が放出されたかを、インバージョンとグリッドサーチというふたつの手法を組み合わせて解析しました。
その結果、2011年1月26日18時に観測された風の条件で、高度4000mに達した噴煙からもたらされた場合のシミュレーションによる降灰分布が観測結果に一番近いことがわかりました。この時刻は、2011年噴火の3つの大きい爆発のうち最初のものの時刻と一致し、噴煙高度は衛星で観測された5kmに近く、噴煙の厚みが1km程度であると考えるとほぼ整合します。また、噴煙から放出される火山灰粒子の量は火口からの距離に応じて指数関数的に減少することがわかりました。この減少パターンは、均一にかき混ぜられた噴煙からの粒子離脱の理論と整合的で、今後はこの減少パターンを詳しく解析することで、精度の高い降灰予測が実現されることが期待されます。
なお、WTは国の中央防災会議防災対策実行会議大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループで実施した、富士山噴火時の降灰シミュレーションにも用いられました(報告書内では「改良版Tephra2」と表記)。