稠密地震観測により明らかにした箱根火山とその周辺の亀裂系構造
本トピックでは、Journal of Disaster Research誌に掲載された、箱根の亀裂系構造に関する研究論文について照会します。この研究は、本多亮主任研究員が筆頭著者となり、安部祐希技師、東京大学地震研究所の行竹洋平准教授、東京大学情報学環の酒井慎一教授と共同で進めたものです。
紹介論文:
R. Honda, Y. Abe, Y. Yukutake, and S. Sakai, “Fracture Structures in and Around Hakone Volcano Revealed by Dense Seismic Observations,” J. Disaster Res., Vol.17, No.5, pp. 663-669, 2022 DOI: 10.20965/jdr.2022.p0663
1. はじめに
箱根火山のカルデラ内には、古い亀裂やダイク、微小亀裂などの多くの割れ目や亀裂が存在しています。そのような既存の割れ目系は、マグマや熱水が侵入する経路として利用され、地震活動の活発化や水蒸気噴火の際の地殻変動の原因となっている可能性があります。私たちはこれまでも、地下の亀裂系についての研究を行ってきましたが(Honda et al., 2014)、本研究ではS波スプリッティングと呼ばれる現象を利用して地下に存在する割れ目系の方向について解析を行い、Fuzzy C-means法と呼ばれる手法を用いて割れ目系の方位についてクラスタリングを実施して、箱根火山の割れ目系の特徴を明らかにしました。
2. 解析手法
本研究では亀裂系の詳細な空間分布を推定するため、2016年から2017年にかけて箱根火山及びその周辺で実施した機動観測のデータを利用しました。まず、S波スプリッティングの解析を行い、各観測点での速いS波の振動方向(LSPD)のデータを集めます。この振動方向が観測点直下の亀裂系の方向に相当します。次に、観測点ごとに異方性の強度などで重みづけしたLSPDの平均を計算します。最後に、Fuzzy C-means法を用いて平均LSPDのクラスタリングを実施しました。
3. 結果
グループの数を2から7まで変化させて、いくつのグループに分けるのが尤もらしいか調べたところ、箱根カルデラの割れ目系は図1および図2に示すように、2つのグループ(AおよびB)または4つのグループ(A1、A2、B1, およびB2)に分類できることが分かりました。B1はおおむね中央火口丘付近、B2はカルデラの南北、A1、A2はカルデラ西部もしくはカルデラ周辺に分布します。
広域応力場の圧縮軸の方向に対応する北西-南東方向の亀裂系が卓越するグループ(B1)は、広域応力場によって掲載された微小な亀裂系やダイクの存在を示していると考えられ、古い火口の配列方向ともよく一致しています。グループB2は、箱根カルデラの南北に存在する丹那断層および平山断層の走向に近い方向を持つグループであり、これらの断層の断層破砕帯が存在することを示唆しています。グループA1、A2はB2の共役系(B2と直交する走向をもつ断層)で説明できる可能性があります。しかし、局所的な応力場による微小亀裂の配列や古い火山構造もこのようなクラスターの原因となりえます。例えば、Doke et al (2020)では、箱根の西側における歪の圧縮軸は、北西南東よりもやや東西寄りの方向を向いていることが示されており、このような局所的な応力場によって形成された亀裂系が存在している可能性もあります。
図1:LSPDのクラスタリングの結果(2グループ)
(a)各観測点の平均LSPDの方向を黒棒で、所属するグループを色で示す。
(b)各グループのLSPDの分布範囲
図2:LSPDのクラスタリングの結果(4グループ)
(a)各観測点の平均LSPDの方向を黒棒で、所属するグループを色で示す。
(b)各グループのLSPDの分布範囲
4. 今後の課題
今回は亀裂系の方向の空間変化だけに対象を絞りましたが、今後は、異方性強度も含めて時間変化を丁寧に追うことで、火山活動の変化を明らかにできればと考えています。