2015年箱根水蒸気噴火時に発生した空振に関する研究
はじめに
本トピックではEPS箱根特集号に掲載された、噴火時に発生した空振に関する研究論文を紹介します。この研究は、行竹洋平主任研究員が筆頭著者となり、本多主任研究員及び東京大学地震研究所市原美恵准教授との共同で進めたものです。
箱根で初めて観測された空振とそこから推測される噴火の推移
火山が噴火した際に火口で急激な空気の圧力変化が生じ、その圧力変動が大気中を伝わる空振と呼ばれる現象が起きることがあります。空振の卓越周波数は、多くの場合人間が聴くことができる周波数範囲より低周波側なので、空振計(低周波マイクロホン)という特殊な計器を使って観測します。空振観測より視界不良時の火口が目視確認できない場合でも、噴火の発生を検知することが可能になります。箱根では2015年4月下旬から火山活動が活発化したため、同年5月下旬に温泉地学研究所大涌谷地震観測点に空振計が併設されました(写真1)。
2015年6月29日午前7時32分ごろから、大涌谷浅部の岩石中の割れ目(クラック)が急激に開口し小規模水蒸気噴火に至ったことが別の研究より明らかになっています。しかし、悪天候のためこの期間の火口の様子を確認できませんでした。そこで空振計記録を見ると、7時32分ごろのクラックの開口を示す傾斜変動と同時に微弱な圧力変動が記録されていることが分かりました(図1b~d)。しかし振幅は大気圧の10万分の1程度と微弱であり、さらに風ノイズに大きく影響されるので、この記録だけでは噴出現象を反映したシグナルかどうか判断できません。そこで、空振計記録とその近傍に併設されている地震計記録との相互相関処理を実施しました。大気と地面とのカップリングにより、圧力波(空振)が地面を振動させながら地表を伝わってくることがあり、その場合空振とそれに励起された地面の振動が、ある特徴をもつ相関関数のパターンとして識別されます。図1eに示した縞状のパターンが該当します。縞状パターンが出現している間、空振とそれに伴う地面の振動が発生していたことを意味します。縞状パターンは、割れ目開口が起きたのとほぼ同時に現れ、約15分間続きました。この結果から割れ目開口とほぼ同時に、大涌谷で水蒸気等の噴出現象が始まり、空振が励起されていたことが明らかになりました。割れ目上端は地表面より100mほど地下にあると推定されているため、火山性流体がクラック上部の多孔質媒質内を瞬時に移動し地表に噴出したと考えるには時間が短すぎるため、この研究では割れ目が開口することでその浅部に急激な圧力減少が生じ、もともと大涌谷直下にあった熱水が沸騰気化して噴出したと解釈しました(図2)。
さらに研究では、上記とは別の特徴を持つパルス状の空振が約2日後の7月1日未明に最も活発に発生したことを報告しております。この時期には今回の水蒸気噴火での最大の火口の形成が形成され、また振幅の大きな火山性微動が観測されていることから、このパルス状空振は火口形成を伴う爆発的噴出現象を反映したものと解釈されます。大涌谷では最初にクラックの開口に伴う水蒸気などの噴出現象が発生し、約2日間の時間遅れを伴って最大火口形成を伴うような爆発的なイベントが生じたことが、空振波の解析を通して明らかになりました。
この研究で示されたように、空振観測により視界不良な場合でも噴火開始の正確な時期やその推移を知ることが可能であり、今後さらに火山監視能力向上や防災対策生かしていきたいと考えております。
2015年6月29日午前7時32分ごろから、大涌谷浅部の岩石中の割れ目(クラック)が急激に開口し小規模水蒸気噴火に至ったことが別の研究より明らかになっています。しかし、悪天候のためこの期間の火口の様子を確認できませんでした。そこで空振計記録を見ると、7時32分ごろのクラックの開口を示す傾斜変動と同時に微弱な圧力変動が記録されていることが分かりました(図1b~d)。しかし振幅は大気圧の10万分の1程度と微弱であり、さらに風ノイズに大きく影響されるので、この記録だけでは噴出現象を反映したシグナルかどうか判断できません。そこで、空振計記録とその近傍に併設されている地震計記録との相互相関処理を実施しました。大気と地面とのカップリングにより、圧力波(空振)が地面を振動させながら地表を伝わってくることがあり、その場合空振とそれに励起された地面の振動が、ある特徴をもつ相関関数のパターンとして識別されます。図1eに示した縞状のパターンが該当します。縞状パターンが出現している間、空振とそれに伴う地面の振動が発生していたことを意味します。縞状パターンは、割れ目開口が起きたのとほぼ同時に現れ、約15分間続きました。この結果から割れ目開口とほぼ同時に、大涌谷で水蒸気等の噴出現象が始まり、空振が励起されていたことが明らかになりました。割れ目上端は地表面より100mほど地下にあると推定されているため、火山性流体がクラック上部の多孔質媒質内を瞬時に移動し地表に噴出したと考えるには時間が短すぎるため、この研究では割れ目が開口することでその浅部に急激な圧力減少が生じ、もともと大涌谷直下にあった熱水が沸騰気化して噴出したと解釈しました(図2)。
さらに研究では、上記とは別の特徴を持つパルス状の空振が約2日後の7月1日未明に最も活発に発生したことを報告しております。この時期には今回の水蒸気噴火での最大の火口の形成が形成され、また振幅の大きな火山性微動が観測されていることから、このパルス状空振は火口形成を伴う爆発的噴出現象を反映したものと解釈されます。大涌谷では最初にクラックの開口に伴う水蒸気などの噴出現象が発生し、約2日間の時間遅れを伴って最大火口形成を伴うような爆発的なイベントが生じたことが、空振波の解析を通して明らかになりました。
この研究で示されたように、空振観測により視界不良な場合でも噴火開始の正確な時期やその推移を知ることが可能であり、今後さらに火山監視能力向上や防災対策生かしていきたいと考えております。

図2 空振計、地震計及び傾斜計記録に基づいて提案された、空振の発生メカニズムを示す模式図。(a)2015年6月29日7時32分30秒ごろに大涌谷下海抜0m付近で火山性流体圧が急増し地震がトリガーする。(b)7時32分50秒ごろに浅部の割れ目に高圧流体が貫入し割れ目が開口し始める。開口によるひずみ変化でクラック浅部に減圧が生じ、噴気地帯にもともと存在していた高温の地下水が沸騰し空振波を伴う急激なガス(水蒸気)の噴出が起きた。
謝辞
本研究では、気象庁により設置された空振計のデータを使用させていただきました。