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更新日:2018年07月24日 作成者:ウェブ管理者 閲覧数:512

箱根山のごく小規模噴火に先立って観測された傾斜変動とそのソースモデルに関する研究

はじめに

本トピックではEPS箱根特集号に掲載された、箱根山の小規模噴火に先立って観測された傾斜変動について解析した研究論文を紹介します。この研究は、本多亮主任研究員が筆頭著者となり、温泉地学研究所職員と東京大学地震研究所の森田裕一教授、酒井慎一准教授、気象研究所の小久保一哉氏と共同で進めたものです。

観測された傾斜変化

 2015年6月29日7時32分頃からおよそ2分間にわたって、大涌谷方向が隆起する傾向を示す傾斜変動が観測されました(図1)。この傾斜変動は、小塚山観測点(温地研)と二ノ平観測点(気象庁)で特に大きく、それぞれ北東方向におよそ4~5μラジアンの変動が観測されました(1μラジアンは1km先の地面が1mm下がるくらいの角度の変化)。また、同時刻帯において、上湯場に設置した広帯域地震計でも、150秒程度の長周期の変動が観測されました。この変化を地面の傾斜に換算すると、西南西方向への9μラジアン程度の傾斜変化であることがわかりました。そのほか、変化量は小さいものの、駒ヶ岳、裾野、塔の峰の傾斜観測点と駒ヶ岳西、丸山南の広帯域地震計でも、傾斜変動が観測されました。

圧力源の場所

 この傾斜変化を起こした圧力源の位置を推定するため、7時30分~36分の6分間の傾斜変化をデータとして、グリッドサーチという手法で解析を行いました。その結果、図1に示すような、北西-南東走向で北東方向に傾斜した割れ目がおよそ5cm開いたことで、このような傾斜変化が起きたことがわかりました。また、推定された亀裂の深さは非常に浅く、上端が標高854mで、噴火が発生した大涌谷の下では地表からわずかに150mの深さにまで達していました。6月29日以後に観測された空振や微動は、この亀裂割れ目の開口と密接に関連していると考えられます(行竹ほか、20172018)。
図1 観測された傾斜変化(赤)と、理論的に推定された傾斜変化(青)。赤い□が推定された亀裂割れ目の位置を示す。標高0mより深い場所にある□は、2001年の活発化の際に傾斜記録から推定された亀裂割れ目の位置(代田ほか、2009)。浅い場所にある黒い□は、SAR(合成開口レーダー)のデータから推定された亀裂割れ目(道家ほかを参照)。黒い点は、6月29日の朝に発生した地震の震源。赤と青の点は、温泉の井戸の位置。

亀裂割れ目の膨張

 傾斜変化を1秒ごとに詳しく見てみると、最初の20秒間程度の変化の方向と、それ以後の変化の方向が変わっています(図2)。最初の20秒間の傾斜の向きを図にすると、亀裂が閉じるような動きをしたあと、亀裂が開くような動きに変わっていることがわかります(図3)。しかし、傾斜計の機器の特性をきちんと考慮に入れて地面の実際の変化と傾斜計の記録の関係を調べてみると、実際には単純に亀裂割れ目が開くだけで、このような見かけの変化が観測されることがわかりました。

図2  6月29日7時32分から8分間の1秒ごとの傾斜記録。グラフが下向きに振れると、南もしくは西に傾斜していることを示す。

図3 図2のグラフに示されたグレーのハッチの部分(20秒間)の、傾斜の方向を平面図で示したもの。湖尻(緑)と駒ヶ岳(青)は最初に東に動いた後、西むきに反転、小塚山(ピンク)と二ノ平(茶)は南西に動いた後、北東に反転している。

まとめ

 本研究では、数分間の傾斜変化のデータから圧力源(亀裂割れ目)の場所を推定できただけでなく、1秒サンプリングのデータを用いてより詳細に解析を行い、傾斜の時間変化を理解するうえで傾斜計の機器特性まで含めて考えることの重要性を明らかにすることができました。
 また、本研究で明らかにされた亀裂割れ目は、北西‐南東方向を向いていますが、現在の箱根山周辺の応力の方向や、S波速度の異方性の研究(本多ほか、2014)から推定された地下の微小な亀裂の方向とほぼ一致しています。地形的にみても、箱根山で発生した過去の割れ目噴火の跡も同様に北西-南東に向いていることから、箱根山の地下には過去の火山活動の際に生じた同様の傷跡が多く存在し、将来的にその傷跡のどれかを再利用して噴火が発生する可能性もあります。今回の噴火では多くのデータが得られましたが、今後も継続的に観測を行い、さまざまな可能性について検討していく必要があります。

謝辞

本研究の一部は文部科学省「次世代・火山研究人材育成総合プロジェクト」による支援を受けました。解析には気象庁の傾斜観測点のデータを使用しました。記して感謝いたします。

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